注)この作品は、株式会社アクアブラス/Leaf発売「To Heart」の設定を使用しています。
  PC版の設定を使用していますので、その点ご了承下さい。
  シナリオは保科智子シナリオ。ゲーム終了後、大学生になった浩之との物語です。








 ”この声が聞こえたら――”







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Written by Kazuki Takatori










 毛布を掴んで、ウチはそれを抱き寄せた。
 灯りも点けないまま、真っ暗な部屋。
 なんか無性に寂しくなって、何かに縋りたくなって……
 でも……
「……どアホ」
 あいつが悪いんだ。
 全部、全部……ウチのことをずっとほったらかした、あいつが悪いんや!
「どアホっ、どアホっ!」
 抱きしめていた毛布をぽかぽか叩きながら、ウチはずっと悪態をついていた。
 この温かさが、あいつのもんやったらいいのに。
 今叩いてる毛布が、あいつの胸やったらいいのに……

 あいつとウチは、別の大学になった。
 あいつはウチのことを追いかけて同じ大学に入りたいみたいやったけど、結局はウチだけが合格して、あいつは下のランクの大学……しかも、ウチの入った大学とは逆の所に入った。
 本当なら、ウチも同じ大学を受けてあいつと一緒に通いたかった。
 でも……それじゃあかんって思うたから。
 それに、あいつも、
「俺の実力が足りなかったわけだし、気にするなよ。まあ、別にずっと会えないってわけじゃないんだしさ」
 そう言ったから、ウチは安心して今の大学に行っとったんや。
 せやのに……
 最初は確かに連絡もくれたし、ウチからも連絡した。
 その時はすっごく嬉しくて、明け方まで電話したり、駅でお互い眠そうな顔見て笑ったりしてた。
 それが、だんだんあいつからの電話が無くなって……
『ごめん、明日早いんだ。委員長には悪いけど、もうそろそろいいかな』
『俺、明日から泊まりだからさ。電話しても居ないから』
 サッカーのサークルに入ったあいつは、電話してもこう言ってすぐ切ろうとする。
 迷惑そうに、そして、イヤそうに。
 ウチも最初は許していたけど……夕方のことやった。
『すっげー疲れた……俺、明日はどこにも行きたくないや〜』
 本当にだるそうな、あいつの声。
 今やったら、あいつの戯言やったって思えたかもしれない。
 けど、その間ずっとサークルとかで休日も会えなかった。
 電話しても、五分とか十分で切るし。
 しかも、忘れとったんや。
 ウチが一昨日「一緒に映画に行こう」って言ったのに……ちゃんと返事したあいつの頭から、それがすっかり抜け落ちとった。
 それにキレたウチは……
『休みたいんなら勝手にしい!』
 そう言って、ウチはさっき電話を一方的に切ってやった。
 詫びの言葉は一言もくれへんし、せやからって埋め合わせもない。
 何かといえば、サークルとかコンパの方を選んで……ウチの方は見向きもしない。
 きっと、ウチは大丈夫やと思ってるんやろうけど、そんなはずない。
 あのアホには、女心なんてわからないんやろな。
 あかりのことといい、志保のことといい……結局、自分のこと好いとるなんて思っておらへんかったやろし。
 それに……ウチかて女なんやで。
 好きな人と一緒に居られれば安心やけど、離れるとそわそわして……
 本当なら、いつも一緒に居てほしい。
 長い間、放って欲しくなんかないんよ……


「あほ……」
 何回、この言葉を言うたんやろ。
 せやけど、本当のこと。
 これだけウチのこと放っておくなんて、アホ以外の何者でもないわ。
 ……まさか。
 まさか、ウチ以外に女ができたんやないやろな!?
 高校のときかて、あやりや志保以外に来栖川のお嬢二人やえくす何とかやってる下の子、超能力持ってる後輩やレミィやマルチもおったし……
 あいつ、浮気性とかやないと思うけど……もしかしたら……
 っと、いけないいけない。またネガティブ思考になるところやった。
 でも、サークルのほうにも誘ってくれへんし、あまり会ってくれへんし、何してるのかもさえ教えてくれへん。
 こんなんじゃ、恋人なんて言えんわ。
 せっかく、あいつと一緒になれてから、一人やないって思えたのに……
 …………
 …………
 寂しいねん……
 大学で友達も出来たけど、あいつだけは特別なんや。
 一週間で一度でもええ。
 あいつと、話ししたいわ……
 わがままかもしれへんけど、これがウチの正直な気持ちや。
 せやから……
 ウチのこと、忘れへんで……

 トゥルルル……

「!!」
 突然の音に、思わず飛び退く。
 なんや……電話か。
 せやけど、この時間やし……あいつか……
 でも、今は出たくない。
 さっき言ったばかりやもん……

 ガチャッ

『はい、保科です。ただいま留守にしてい――』
『委員長?』
 留守番電話のメッセージに被さるように、あいつの声が聞こえてくる。
『委員長、いるんだろ……? なあ、いい……と、智子っ!』
「!!」
 な、何いきなり名前で呼んでんねん……

 ピーッ!

 発信音が鳴って、録音が始まる。
『ごほんっ……』
 まったく、なに咳払いしてるんだか。
『すまん、智子……明日、約束だったんだよな。疲れてても、あんなこと言っちゃダメだよな』
 なんや、わかっとるやん。
『なんか、ずっと智子にそういうこと言ってたっけ……不安にさせたなら、ごめん。会えない分、電話してやれば良かったって思ってる』
 …………
『ずっとサークルだ、コンパだって言ってたけど……あれさ、嘘なんだ』
 ?!
『俺、一緒の大学に行けなかっただろ? だから、なんだか寂しくなってさ。ちょっと計画したことがあるんだ』
 計画……?
『その計画で、いろいろお金貯めたりとかしてて……その……ずっと、バイトしてたんだ。
 それで、夏休みは智子一緒にいてやりたくって』
 ……へえ。
『だから、今は苦しくても夏まではと思っていたんだけど……ずっと放っておいて、本当にごめん。俺が悪かった』
 あいつ……
『だから、お詫びとしてさ。一緒に……その……旅行にでも行かないか?』
 ほんま、粋なことしよるな。
『場所は智子の好きな所でいいよ。俺、これでもいっぱい働いたんだからな? 就職もしてないのにさぁ』
 あんたにしては、一生懸命やったんやな。
『まあ、一緒にいたいし……今も、それに……これからも、ずっと』
 ……て、照れるやん。
『夏休みが終わってからもバイトするけど、智子のそばに居られるようにするよ。あと、智子の家にもおじゃまさせてもらおうかな』
 ふーん。
『将来の「予行演習」ってことでさ』
 どっ……!
「どあほっ!!」
 む、むっちゃ顔熱いわ……
 ほんま何言ってるんや、こいつは!
『それじゃあ智子……また、連絡するから。
 一緒に、また話そうぜ』

 ガチャッ

 …………
 やっぱ、あいつはアホやわ。
 けど、むっちゃ愛しいアホやねん。
 ウチもアホや。
 こんなアホ好いてもうたんやからな。
 お互い、ほんまアホや。
 アホ同士、通じるもんでもあるんかな。
 ウチも、またあんたと話したい。

 受話器を取って、短縮ボタンを押す。
 何かといえば押してきた、このボタン。
 そして、あいつのことを思って付けた番号……一番をブッシュする。
 やっぱり、このボタンを押すとワクワクする。
 なんたって、あんたの声が聞こえるんやからな。
 だから……

 トゥルルル……

 もう一度、声を聞かせてな。



 ガチャッ


『はい、もしもし』
「あっ、藤田君?」







− Disconnect −


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