●● ふたりの足跡 - アキハバラ1988 - --- エピローグ ●●
エピローグ
6月17日、晴れっ!
……と行きたいとこだけど、なんかこー、微妙な天気だねー。
まあ、そんな日でも雨が降ってなきゃアキバに来ちゃうわけで。
しかも今日は、でっかいお買い物があるんだねーこれが。
「すいません、予約しといたこれくださーい」
「はい、少々お待ち下さい」
「予約って……こなた、何を予約したんだ?」
「それは見てからのお楽しみにー……ってほら、来た来た」
「へ? ……げげっ!!」
「Net's Noteになります。お会計よろしいですか?」
「はーい」
「おい、まさかオレに払えってんじゃないだろうな!」
「違うってば。はい、163000円でお願いします」
「こ、こなたが自分で買ってる?!」
「それでは、440円のお釣りになります」
「しかもホントに受け取ってる?!」
「ありがとうございました」
あー、顎外れちゃいそうだよお父さんってば。
ま、いっか。
「お父さん、いつもありがとう」
「へ?」
「それと、これからもよろしくお願いします」
「あ、ああ」
「とゆーわけで、はい、コレ」
「……コレ?」
「ほら、今日は父の日だし」
私はニヤッと笑いながら、受け取ったばかりの箱を手渡した。
「えええええええええええええええええええええええええ?!?!?!?!」
* * *
「いやー、まさか娘にこんなどえらいものを買ってもらってしまうとは……」
私は絶叫して石像と化したお父さんを連れて、秋葉原公園へとやってきていた。
復活したら大事そうに箱を抱えてくれてるし、娘冥利につきるわー。
「でも、本当に大丈夫なのか? お前もいろいろ買いたいのがあるだろうに」
「そこらへんはバイト代でどーにかなるって。それに、お父さんにあげるのはちゃんと手元に残るものにしたかったし」
「手元に残るって、これはいくらなんでも高いだろ……」
「そっかな?」
そんなに高くないと思うんだけど。
「私はお父さんから、今までいろんなものをもらってきたんだから」
それに比べたら、パソコンなんて安い安い。
「むう……んじゃ、有り難く使わせていただきます」
「簡単に壊さないでよ? せめて286のU君ぐらい大事にしてもらわないと」
「大丈夫、娘に貰ったパソコンを簡単には壊さんよ……って、そこでどうして286が出てくるんだ?」
「いやー、古くなって使わなくなった今でも大切に掃除してるんだもん。お父さんの宝物なんだってよくわかりますヨ」
私が生まれたときから、ずっと我が家に一緒にいるU君。
そして、夢の中でお母さんと一緒に買っていたU君。
それからお母さんと過ごした時間は短かったかもしれないけど、お母さんとの想い出がいっぱい詰まったU君は、今でもお父さんと一緒に過ごしている。
「だから、コレもお父さんの宝物の一つにしてもらわないと」
「娘からこんな凄いモノを貰っといて、宝物にしない父親がどこにいるっ」
「んー、どっちかというとエロゲのほうを大事にしそうな感じ?」
「……お父さん、そんなに信用ないのかね」
「冗談だから真に受けない真に受けない」
大丈夫大丈夫。
お母さんとの想い出を大事にしてるお父さん、ちゃーんと信用してますヨ。
「まあ、286なー……あれは特別だよ」
「お母さんとの想い出が詰まってたり?」
「お、よくわかったな。
もうずーっと前に、ここをぐるぐる探し回ってまわってな。なかなかいいのが見つからなくて、最後にしようと思った店で『これだっ!』て見付けたのが286だったんだよ」
「へー」
「でも、何故かなたが『ほんとに小さいのが好きなのね』ってスネちゃって」
「あはははっ」
夢の中の二人のやりとりがあったから、すぐにでも思い浮かぶなー、それ。
「しかし、あれからもう何年も経って……ここも色々変わったもんだ。久しぶりにかなたとのデートコースを歩いたけど、ほとんどお店が無くなってたのはちょっと残念だったな」
「寂しかった?」
「まあ、寂しくないって言ったらウソになる。でも、変わらないものなんてあるはずないんだ。今日こなたと歩いて、いろいろお喋りして、こんなに素敵な贈り物をくれるまで育ってくれて、よーくわかった」
にこにこと笑いながら、お父さんが深々とうなずく。
「それに、想い出は覚えてさえいればずっとそこにある。今日歩いてても『ああ、ここでかなたとこんなことがあったな』とか『こんなのを食べたな』とか、色々思い出したよ」
「そっか」
もしかしたら荒療治になるかなとも思ったけど、一緒に散歩して良かった……かな。
「おっ、そうだそうだ」
何かを思い出したように、お父さんが両手をぽんと打つ。
「ちょうど、ここの公園にも想い出があってな」
そう言いながら、お父さんはお財布を取り出した。
「286を買った後にここで休んでたら、かなたがいきなり見知らぬ子と仲良くなったんだ」
えっ?
「『素敵なカップルですね、写真一枚撮らせてください』とか、変わった子たちだったよ」
それって……
「ついでに、俺らも一枚写真を撮ってもらって……ほら、これこれ」
そう言って、お父さんが開いた財布の中から出てきたのは、
「よく撮れてるよなー、これ」
……夢の中で、私が撮った写真だ!
「かなたも大事にしてて、焼き増ししたのをアルバムに貼ってたっけ」
想い出を確かめるように、お父さんが微笑む。
それは寂しそうなものじゃなくて、まるで想い出を確かめるみたいで……
「お父さん」
「ん?」
「お母さんと過ごした日々……幸せだったんだね」
私も、確認するようにお父さんに問いかける。
「もちろん」
お父さんは満面の笑顔で頷くと、
「ずーっと幸せだったさ。それに」
私の頭にそっと手を置いて、
「かなたが遺してくれたこなたがいてくれて、今でも幸せだよ」
優しく、撫でてくれて……
「……うんっ!」
ちょっぴり、涙が出てきた。
私たちを見守ってくれる、お母さん。
「じゃあさ」
「おっ?」
「私たちもさ、この写真と同じように写真撮ろうよ」
美少女ゲームが大好きで、漫画が大好きで、アニメも大好きなお父さんだけど、
「写真って、デジカメでか?」
「そーそー、想い出作り想い出作り」
「ふーむ……ま、そだな。娘との想い出作りってのも良いか」
お母さんの想い出と一緒に、前へ歩き続けているみたいです。
「でしょ? んじゃ、誰かに頼んでっと……」
「あ、すいません。写真撮ってもらってもいいですか?」
「えっ、未成年誘拐略取? 違いますよ、ただの親子ですってば。失敬だなー」
私にもいろいろ伝染しちゃったけど、そこは諦めてください。
「あ、いいですか? それじゃあお願いします」
「ほらほらお父さん、手を繋いで」
「いいのか?」
私も、一緒に歩いてくれる友達がいます。ツンデレで、素直じゃないけど。
「当然。お母さんにもやったんだから、私にもやってもらわないと」
「うーん、改めて言われると照れるなぁ」
「実の娘に照れるなっ」
そうだ、かがみにも写真のこと、ちゃんと教えてあげなくちゃ。
「んじゃ、ちゃーんと手を絡めて」
「そうそう、ちゃんと離さないように」
「……うん、これでよしと。それじゃ、お願いしまーす」
まあ、そんなこんなで騒がしくて、退屈するヒマもない日々だけど、
「「はいっ、ちーず!」」
私たちは、元気だよっ!
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