ハンドメイド
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……だるぅぅぅぅぅぅぅぅ」
スタジオから出た私は、扉に寄りかかりながら思いっきりため息を吐いた。
ったく、ただ収録するだけでもダルイってのに、一日で4本分録るだなんて。いくらテレビの収録で長期ロケがあるからって、マネージャーもホイホイ仕事を詰めるんじゃないわよ。
「おつかれさまっすー」
「あっ、おつかれさまですー☆」
あっぶな、営業スマイル忘れるところだった。まだまだ前半戦だってのに、後2本もつのかしら……マネージャー、あとでフルボッコ決定ね。
とりあえず、まずはお昼ご飯を食べないと。あーでも、ここの仕出し弁当ってあんまり美味くないのよねー。いくら高い弁当でも、機械でばーっと作った弁当なんて美味くないっての!
イラつきながら、私は楽屋のドアを蹴り開けた。
「あ、あきら様。どうしたんですか?」
中に入ると、白石のボケ顔が……って、何故?
「あんた、どうしてここにいるのよ」
「どうしてって、ここは僕の楽屋ですけど?」
「あぁん? そんなわけないじゃない。私が間違ってるっての?」
私はそう言いながら、ドアを見上げて……あ。
「"白石みのる"様ぁ? なーにこいつまで様づけしてんのよ。"様"をつけるのは私だけで十分だっての!」
「いや、それはスタッフさんの心配りってやつで――」
「白石まで心配りするぐらいなら、私のほうに全部注ぎ込めばいいの!」
「……あきら様、今日は午前中からよく飛ばしてますねー」
「ふんだっ、あんたの顔を見たらイライラしただけよ!」
ああっ、ホントこいつのボケボケ顔見てるだけでイライラするんだから。
「で、あんた何食べてんのよ」
ふと見ると、白石は仕出しのものとは違うプラスチックの弁当箱を開けているところだった。
「あ、これですか? 母親が"今日は長丁場だから持って行きなさい"って持たせてくれたんですよ。今日は仕出しがあると思わなくて」
そう言う白石の机には、手がつけられていないままの仕出し弁当の箱が置いてある。
「へえ、母親ねぇ。こんなのに持たせるだなんて、すっごくもったいない」
「まあ、曲りなりにも僕の母親ですから」
母親……ね。
私にとっては、あんまり良くない言葉。聞くだけで、気分が滅入りそうになる。
「あー、よかったらあきら様も食べます? まだ手もつけてませんし」
「なっ! だ、誰があんたの弁当なんか食べるって!? ばっかじゃない?!」
まったく、自惚れるのもいい加減にしなさいっての。誰が男の弁当なんか……
「いや、それが……なんかみょーに張り切っちゃってて、僕一人じゃ食べ切れなさそうなんですよ、これが」
「本当、親子揃ってボケボケね」
ため息をつきながら、私はしぶしぶヤツのお弁当を覗き込んだ。
手作りの弁当、か。
いったい、どれくらいぶりに聞く言葉なんだろ。
ハンドメイド
from "らき☆すた - Lucky☆Star -"
Written by Kazuki Takatori
少し大きめの弁当箱の中には、出汁巻き卵に肉団子、エビチリにイカフライ、それとでっかい海苔ご飯……へー、男の子の弁当って感じね。
「なーんだ、フツーのお弁当じゃない。張り切ってるって言うからどんくらいかと思ったわ」
「いつもは鮭一切れとか、ひどい時はコレにご飯ぎっしりと梅干し一個ですから……」
「あんたには実にお似合いの弁当じゃない。それに、私にはこんな弁当合わないわ。さて、楽屋で仕出しの弁当でも――」
くぅうぅうぅぅぅぅぅうううぅぅぅぅうぅぅ……
「…………」
「…………」
「……あの、あきらさ――」
「ねえっ、みのるお兄ちゃん☆」
「は、はいっ!?」
私は営業スマイルを浮かべながら、両手を白石の首にかけた。
「今の、聞こえてなかったよねっ☆」
「い、今のって、あきら様のかわいらしいお腹のお――」
「聞こえてなかったよなぁ白石ィ?!」
そして、何かをほざこうとしたコイツの首を一気に締め上げるっ!
「ぐひゅっ?! あ、あきら様ッ、聞いてませんっ! 聞いてませんっ! 鼓膜が風に揺れただけぐえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「ふんっ、最初からそう言いなさいよ」
手の力を緩めると、白石はがっくり崩れ落ちて床に這いつくばった。
まったく、このバカは……全部、この弁当のにおいがいけないのよ。
ため息をつきながら、私はまた主のいない弁当箱を眺めた。
肉団子はよく店で売ってるようなタレでギットギトのものじゃなく、揚げてあって別についてるソースで食べるもの。出汁巻きにはグリンピースが入ってて、エビチリも冷凍で身が白っぽいものじゃなく、イカフライもちゃんと揚げてある。へえ、ホントに手作りなんだ。
そう思うと、なんとなく心が苦しくなる。
手作りの弁当なんて、もうどのくらい食べてないんだろ。
小学校の頃ぐらいだったような気はするけど、それからはずっと仕出しとかマネージャーが買ってきたコンビニ弁当ばっかりだし。そもそも……"あの人"は作ってくれないから。
なんとなくむしゃくしゃして、腹いせに肉団子をひとつつまんで口に放り込む。
……何よ、ハンバーグの団子版じゃない。もっと工夫ぐらいしなさいっての。そりゃ、やわらかくて食べやすいけどさ。ソースもそんなに辛くないし。
出汁巻きは、グリーンピースをよけてと……あ、甘っ! 甘いっ! 何コレ、砂糖どんだけ入れてるのよ! お子様じゃないんだからもっとお砂糖控えなさいっての!!
あーもー、口直しのエビチリは……かっ、辛ぁぁぁぁっ!! 辛いっ! なによこの両極端! 確かにバランスはいいかもしれないけど、このバカの味覚ってどうなってんのよ!
「あ、あのー、あきら様?」
イカフライは……しなしなじゃない。お弁当なら仕方ないかもしれないけど、まあ固くないしフツーね。じゃあ、もう一度肉団子を――
「えっと、あきら様ー?」
「わひゃああぁぁぁああっ?!」
な、なにいきなり生き返ってるのよ、このバカはっ!!
「あの、お気に入りでしたら、もっと食べていいですよ?」
「だっ、誰がこんなもの!」
あまりにも恥ずかしくて、私は思いっきり弁当箱に手をかけて……
「こんな……ものっ……!」
でも、できなかった。
このお弁当が、曲りなりもコイツのことを想う人が作ったって考えただけで……手が、固まる。
だけど、そんなの私らしくない……だからっ!
「こうしてやるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
「ちょ、あ、あきら様っ?! 何してるんですかっ!?」
「はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐっ!!!!」
私は思いっきり、このお弁当にがっついた。
こいつが、もっと食べていいって言ったんだから! 全部、全部食べてやるっ!!
「ちょっ、い、いくら何でも食べすぎですって!」
「知るかっ!! あぐあぐあぐあぐあぐあぐあぐあぐ!!」
手作りのお弁当……全部、私のエネルギーにしてやるんだからっ!
「ふぃ〜……」
「あ、あの、あきら様。いくらなんでも食べすぎだったんじゃ?」
全部食べ終わって椅子に座ると、白石はお茶を差し出しながら私の顔を覗き込んできた。
「うるさいわねっ! あんたの分のエネルギーを私が補給してあげたんだから、感謝しなさいっ」
「ぼ、僕の分のですか?」
「……なんで顔を赤くしてんのよ。このバカ」
本当、コイツってばどうしようもないんだから。まあ、そのぐらいボケボケなほうが私も目立ってコントロールしやすいんだろーけど。
「よかったら、母に頼んであきら様の分も――」
「あぁん?! のぼせてるのはどの口なのかなぁっ!?」
「い、いひゃいですいひゃいですっ!!」
とんでもないことを言い出した白石の両頬をぐいぐい引っ張りながら、思いっきり睨み付ける。
そんな、毎週じゃなくて……今日食べただけで、当分は大丈夫だっての。
「まったく、本当にあんたはボケボケなんだから……そんなこと言う暇あったら、早く仕出し食べて午後に備えなさい。後半はもっともっといじってやるんだから!」
「そ、それは勘弁していただけると嬉しいかなーと」
「さー、どうしようかしら」
そうするかどうかは、いつも私の気分次第。ま、今日はお弁当っていうプラス材料はあるけどもね。
「あーもう、あと20分しかないじゃない。私は先に行ってるから、遅刻したらただじゃおかないわよ!」
「は、はいっ、わかりましたっ!」
バタンッ!!
あわててペコペコ頭を下げる白石の姿を消すように、私は外に出て思いっきり楽屋のドアを閉めた。
「手作り弁当……か」
ちょこっといっぱいになったお腹に手をあてて、ふとそんなことをつぶやいてみる。
――今度、マネージャーに手作り弁当作ってこいって命令してみるかな。
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