いつもどおりの、新しい日々。

novel

いつも通りの、新しい日々。

from "らき☆すた - Lucky☆Star -"

Written by Kazuki Takatori





 トントントンと、うっすらピンクに染まったかまぼこを切っていく。
「えっと、そしたらこれを並べていって」
 そのかまぼこを、さっき切っておいた白いかまぼこと交互にお重に並べていきます。
 あとは、昆布巻きと伊達巻きを入れて……よしっ、完成。
 お重の蓋を閉めたら、次は……あっ、お雑煮のお餅を焼かないと!
「お姉ちゃん、お餅いくつ焼くー?」
 そう言って居間の方を振り返ると、そこには――
「私は二つかなー」
 こたつでぐでーっとしてるお姉ちゃんと、
「おじさんはどうしますー?」
「俺は三つでー」
 こたつに突っ伏しているおじさんの姿。
「はーい」
 いつもだったらその立場の私は、一人でお正月のごはんの用意をしてました。

 大晦日といえば、大掃除も終わってほのぼののんびり過ごす日。少なくとも、ここに来るまではずっとそう思ってました。
 でも……ここのお家は違ったんです。
『あっ、ゆーちゃん、大晦日はコミケに行ってくるからねー』
『俺も始発から行ってくるから、お留守番頼めるかな?』
 冬休みに入る前からそう言ってた二人の姿は、昨日私が起きた時にはどこにもありませんでした。
 確かにコミケの前に買い出しと大掃除をしたから、のんびりとした大晦日を過ごせたけど……ちょっぴりさみしかったのは、私の心にしまっておいたほうがいいのかな。
 あとは、一人でお昼を食べて、ちょっとお出かけをして、夕ごはんの用意をして、しばらくしたらお姉ちゃんとおじさんが帰ってきた。そこまではいいと思うんです。
『ただいまぁ〜……』
『今帰ったよぉ〜……』
『お、おかえりなさーい』
 玄関でお出迎えして、二人が今にもとろけそうな顔でふらふらになってたりしたら、びっくりしてもおかしくないですよね?
 そんな二人をリビングまで何とか連れていって、それからは一人で夕ごはんのしたく。食事をして一晩眠れば、二人と元気になるかなーと思っていたんですけど……
「すぴー……」
「くかー……」
「ちょっと、二人ともまた寝ちゃダメだよー?!」
「「ふぁーい……」」
 お昼になっても、二人の疲れはまだ取れてないみたいです。
 コミケって、それだけ疲れるのかなぁ……田村さんも、よくふらふらになってたし。私には、絶対に行けそうにない場所かもしれません。

 お餅が入った箱を戸棚から取り出して、蓋を開ける。
 私とお姉ちゃんが二個ずつで、おじさんが三個。全部で七つを焼き網に置いて、コンロの火をつけたら、あとはしばらく待って……と。
「ゆーちゃん、あんがとねー」
「いいってば、気にしないで大丈夫だよー」
 居間からのお姉ちゃんの声に、また顔だけ振り返りながら返事します。
 いつも二人のおかげで楽しく過ごせてるんだから、これくらいはちゃんとしないとね。
「でもさ、お父さん」
「おー?」
「こうやって夕ごはんを誰かに作ってもらうのって、ホントめったになかったよね」
「あー、そうだな。昔、ゆきたちが来たときぐらいか」
 あごをこたつの板に載せながら、顔を見合わせるお姉ちゃんとおじさん。その表情はぼーっとしてたけど……
「大晦日の夜にこうやって座ってるの、一体何年ぶりだろうな」
「私は小学生の頃以来だね」
「俺は十数年ぶりだな」
 言葉のやりとりは、どこかしみじみとしてて……二人がこの家で、どんな風に暮らしてきたのかがかいま見えます。
「まさか、あんなに小さかったゆーちゃんにごはんを作ってもらえるなんて」
「いやいやお父さん、ゆーちゃんはまだまだ十分ちっちゃいデスヨ」
「お、お姉ちゃんってば!」
「いーじゃんいーじゃん、需要は十分にあるヨー」
「うんうん、そういう属性は希少価値なんだからさー」
「そういう問題じゃありませんっ!」
 もうっ、しんみりしたと思ったらすぐにこうなんだから。まだまだ、私は育ち盛りだもんっ! ……たぶん。
「あははっ、冗談だって。冗談」
「もー」
 ちょっとほっぺたをふくらませたら、すぐに謝ってくれたお姉ちゃん。
「素質は十分なんだけどなぁ」
 おじさんは、反省してるんだかどうだか。
 のんびりとしたペースに、私まで巻き込まれちゃいそうです。
「それは冗談として……ゆーちゃん、やっぱりもう一個お餅追加で」
「お、おじさん、四個も食べるんですか?!」
 い、いくらなんでもそれは多すぎじゃあ……
 おじさんを止めようと、私が体を居間のほうに向けると、
「いや、違うよ」
 苦笑いしながら、おじさんは体を起こして居間の奥に目を向けました。
「あっ」
 視線の先には、少し大きめの仏壇。
「ああ、そっか」
 お姉ちゃんも、突っ伏していた顔を仏壇のほうへ向けます。
「せっかく、初めて四人で迎える正月なんだからさ。かなたとも、一緒に新年のお祝いをしないと」
 その中にあるのは、笑顔で私たちを見つめているかなたさんの遺影。
「そっか……そうですよね」
 おじさんの言葉を聞いて、私はもう一個お餅を網へ載っけました。
「かなたが好きだったんだよ。このお店のお餅は」
「だから、わざわざお煎餅屋のお餅を買うって言ってたんですか」
「そういうこと」
 満足そうにうなずくと、また仏壇に向き直るおじさん。
 お正月の用意を買い出しに行くとき「お餅は別に買う」って言ってた理由が、ようやくわかりました。
「ついてそんなに日にちが経ってないもんだから、ふくれてにょろーんってくっつくお餅に悪戦苦闘して、俺がフォローしたりな」
「……お父さん、絶対狙ってたでしょ」
「はっはっはっ、それは否定しない」
 また冗談めかして言うおじさんだけど、それだけおじさんはかなたさんとの時間を大事にしてたのかもしれません。
 だって、お姉ちゃんに向けたおじさんの笑顔は、とっても楽しそうだから。
「でも、いつの間にかこなたが手伝ってくれるようになって、今日はゆーちゃんがやってくれて……ホント、時の流れってのは早いんだなぁ」
「まだまだ老け込むのは早いよ、お父さん」
「こらこら、誰が老け込んでるって? 俺はまだまだ現役だぞ、いろんな意味で」
「危なっかしいセリフ禁止!」
「えー?」
 ビシッと指をさすお姉ちゃんに、何故かあわてふためくおじさん。でも、なんで二人とも可愛らしく言うんだろう。
「まったく、お母さんがここにいたらきっと天罰モノの発言だよ」
「何を言う! かなたへの愛こそ現役バリバリだ!」
「はいはい、ごちそーさま」
 こたつに入ったまま、そんなやりとりをしてるお姉ちゃんとおじさん。
 相変わらず、いつも通りの二人だけど……私の前で普通にこういう話をしてくれるのが、私もこの家の子なんだって思ってくれてるみたいに思えて。
「あははっ」
 それが嬉しくて、思わず私は笑ってしまいました。

 初めて、このお家で迎えるお正月。
 住み始めた時の不安が嘘みたいに、今はこの雰囲気が楽しくて……こうして私を頼りに
してくれるようになったのも、とっても嬉しくて。
 去年とは違った一年を、今年も楽しく過ごせそうです。
 だって、頼りになるお姉ちゃんとおじさんがいて、かなたさんだって見守ってくれてるんだもん。
 だから、

「はいっ、出来たよー!」

 お姉ちゃん、おじさん、かなたさん。
 今年も、よろしくお願いします。
 
novel
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