『次は、新小宮山。新小宮山です。JR武蔵野線は、お乗り換えです』
おっと、ここで降りるんだっけ。
昨日貰ったメールを確認して席を立つと、電車はホームに滑り込んでいった。
いつもアキバに行くときは通り過ぎるけど、なかなかご立派な駅なよーで。これでメイトやゲマズみたいな店があれば利用するんだろーけど。
ドアが開くと、休日ってこともあってかホームに出る人はまばら。そのままゆっくりと階段を下りて……確か、改札で待ち合わせだったよね。
んじゃ、Pasmo出してっと。ん? あの金髪は……って、ちょっ!
「おーい、泉。こっちや、こっちー」
なんでもうここでロッテのシャツなんて着込んでるんですか先生!
私だけの"せんせー"
from "らき☆すた - Lucky☆Star -"
Written by Kazuki Takatori
「……んで、どーしてそんなカッコで来てるんですか」
「何ゆーとんねん。ファンやったら球場入る前から気合い入れるのがデフォや」
先生はにっこにこしながら言うけど……いや、そのピンストライプのシャツは目立ちすぎですヨ?
「しかし、まさか休日に先生のほうから誘われるとは」
「いつもオンで閉じこもってるってのもアレやからな。たまにはこーやってオフ会ってのもええやろ」
「そのオフ会で野球観戦ってのは全然聞いてませんでしたが」
それは昨日のこと。HRが終わった後、先生に呼び出されて、
『泉ー。明日ヒマか? たまには外にでも遊びに行かんか?』
って言われて、イベントも無いし、バイトもお休みだし、ネトゲもちょいと煮詰まりすぎてたってことでOKしたのが、まさに運のツキ。
「来たモンはしょうがないと思っとき。昼飯も電車代もオゴるって言っとるんやし」
「それは確かにお得ですけどー……ヤですよ、あの人混みの中に行くの」
たまーにテレビで見るけど、あのチームの応援っていろんな意味で凄いからなー。
「あの中で応援するのがええんやないか! って、まあ初心者には確かにあそこはキツいわな。今日は幕張やなく、浦和でまったりコースや」
そういえば、確かに乗ってる電車は幕張方面じゃなく浦和方面。南小宮山駅じゃ、向かい側のホームには先生のお仲間らしき人がいっぱいいたよーな……
「浦和? 浦和で高校野球でも見るんですか」
「ちゃうって、二軍や二軍。人も少なめやし、入場も無料やからたまにはそこでまったりしよ」
「はあ、二軍ですか」
あんまり野球には詳しわけじゃないけど、そういえば二軍でも試合をやってるんだっけ。なんか、河川敷でやってるとかそういうイメージが……
「で、どーして私に白羽の矢が?」
「今のネトゲもそろそろやり尽くしたって感じがしてなー。多分泉もそうやないかと思って」
うわ、ホントにビンゴだよ。
「最近は真新しいクエストもあんまり無いですからねー」
「もーちょい、こうヒネったクエスト出してもらわんと。ユーザーとしてヒマでかなわんな」
「……で、そんな理由で私と野球と」
「そやー。興味が無いってわけやなさそうやったし、たまにはええかなと思って」
「まさか、これ幸いと私にお説教でもするんじゃないでしょーね」
それに関してはアレやコレやソレやと思い当たりが無いわけでも無いんで……
とか思ってたら、先生はひらひらと手を振って苦笑いした。
「あのな、こういうお休みの日は教師と生徒ってのはナシ。海行ったときと同じ思っとき。それに、帰りには新小宮山のアニメイトでも連れてったるから」
「えっ、あそこってアニメイトあるんですか!」
「ちょいと歩けばな。とゆーわけで、夕方頃までは付き合ってもらうで?」
「まあ、それならいーですけど。ホントにお説教はナシですからね」
「アホ、そんなん当たり前やないか」
先生はそう言うと、にかっと笑いながら私の頭をなでつけた。
武蔵浦和駅で降りて、私と先生は高架沿いをてくてくと歩き始めた。
途中のコンビニで缶ビールを買い込んでたのには閉口したけど「せっかく電車で来とるんやし、飲まな損やろ」とかウキウキしてるし……まあ、休日だからいっか。
そんなこんなで徒歩十五分。私たちは「ロッテ浦和球場」っていう看板が出ているネットの下に立っていた。
「ほら、着いたでー」
「はー、こんなところに球場なんてあったんですか」
まわりは住宅街ってわけじゃないし、原っぱってわけでもないし……うーん、微妙だ。
「そや。あんま設備は良くないけど、これで無料やったら文句ナシ」
「んー、お得とゆーかなんとゆーか」
ファンにとってはそうなのかもしれないけど、私にはどっちでもないような。
「ほな、時間もええところやし、そろそろ行くでー」
先生はそう言うと、私の手を引いて歩き出した。
……なんか、お父さんにしてもらって以来だな、こういうの。
「おー、やっとるな」
中に入ると、先生のシャツと同じピンストライプのユニフォームを着た大勢のプロ野球選手がグラウンドで練習しているところだった。
「ここ最近チームの調子も悪いみたいやけど、今日は日本晴れなんやしスッキリ勝ってほしいもんやなー」
「調子が悪いって、どのくらいなんです?」
「11勝29敗」
「ちょっ」
じゅ、11勝29敗って借金背負いまくりじゃないですか!
「でも、ななこサンが来れば今まで21勝17敗やから大丈夫!」
「いや、それもまた微妙なラインかと」
「ほっとけ、気分や気分」
あうっ、デコピンは酷いですせんせー。
「んじゃ、どこにしよかなー……そやな、あっちにしよ」
ぐるぐると辺りを見回していた先生は、三塁側の奥の方に歩き出した。途中、上段の席に座ってるロッテの帽子を被ってたオジサンたちに挨拶してたけど、こんなところにも顔見知りが居るんだ。
私も先生についていって、奥の方にある席につく。
「おー、目の前すぐがグラウンドってのは意外と迫力がありますねー」
「そやろ。それがここのいいトコや」
確かに、コレでタダだったらお得かもしれない。
「それじゃ、試合始まる前にお昼にしよか」
そう言いながら、先生は肩から提げていたバッグから何かを取り出した。
えっと、コレはお弁当箱?
「あの、これってお弁当ですか?」
「そやー」
お弁当のフタが、パカッと開けられる。
「しかもなんか、手作り感にあふれてますね?」
「そやー」
おにぎりに鶏の唐揚げ、メヒカリの唐揚げに卵焼き。ほうれん草のバター炒め。お弁当の定番メニューがB5判の同人誌大のお弁当箱に詰め込まれていた。
「お母さんに作ってもらったんでしょうか」
「アホ、ウチは一人暮らしや」
ってことは、先生の家には先生一人しか住んでいないわけで……ってことは……
……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?
「ちょっ、コレ、せんせーの手作りなんですかっ?!」
「言うたやろ、料理も家事も人並みに出来るって」
「いや、確かに言いましたけど、言いましたけどー!」
唐揚げは鶏もメヒカリも冷凍じゃなくて手作りだし、おにぎりもちんまりかわいく握られてる。まさか、先生の手作りお弁当を食べる機会が来るとは……
「ま、泉の口に合うかどうかはわからんけどなー。ほれ、お前の分のお箸」
「あ、ありがとうございます」
んじゃ、鶏の唐揚げを一ついただいてみますか。
あむっ。
「どや?」
「……あの、先生」
「ん?」
「手作りにしちゃ、コレってみょーに手が込んでやいませんか」
普通だったら鶏肉に唐揚げ粉をまぶして揚げて「はいオシマイ」なのに、コレはいろんな味付けがされているっていうのが、噛むだけでよくわかる。
「ふふふっ、ななこさんをあんまり甘く見てもらったら困るなぁ。オカン直伝でな、しょう油に酒、ハチミツ・レモン汁をちょびっととショウガの絞り汁で鶏を揉み込んで、最後に片栗粉を混ぜ込んで揚げるんや。唐揚げ粉なんて使うたら、黒井家の名がすたるで」
おおぅっ、なんか妙に威張ってるけどそれに見合う味だー。
メヒカリの唐揚げも中までしっかり揚がってたし、卵焼きは砂糖が少し強めで私も好み。ほうれん草もベーコンの味が混ざってていいし、おにぎりも全然ボロボロしてこない。
「ふふふっ、びっくりしたやろ」
「びっくりとゆーか、普段の先生とは180度違う繊細な料理だなーと」
「……試合終わったら、そのへんゆっくり教えてもらおか」
あう、余計な一言だったか。
「というか、ギャルゲーでもこういうイベントは実に萌えなシチュエーションですけど」
「お前、例えがなぁ――」
「リアルで経験しても萌えるもんなんですね」
「あ、アホぬかせっ」
いや、実に萌え萌えですよー。料理が美味ければさらに倍。
そんなこんなで、私は先生手作りのお弁当を美味しく頂いた。
さっきのレシピは、お父さん用にまた教えてもらおっと。
試合が始まると、選手とかよくわからない私はただぼーっと見てるしかなかったけど、ロッテファンな先生はやっぱり試合にのめり込んでいった。
「こぉら大松! 上で定着したいんやったら堤内ぐらいしっかり打たんかい!」
「手嶌ー! 同期の久保が泣くよなピッチングはするなー!」
「ワティ、ズレータおらんのにここで打率一割でどーすんねん!」
「おーっ! 細やんホームラン! 角中と一軍争いしたりやー!」
「ああっ、ジョニーや! ジョニー! 上で待ってんでー!」
まわりは結構のんびりしてるのに、ここだけなんか関西の某球場みたいに空気が違うよ……
他の観客のみなさんすいません。先生はいつもこんな感じなんです。千葉マリンでもそうだったらホントすいません。そう苦笑しながらまわりを見てると、オジサンたちもいーよいーよという感じに手を振りながら、選手に野次や愚痴をこぼしていた。
他にも膝枕してるカップルはいるし、スコアブックをつけてる人もいるし、お酒飲んで潰れてる人もいるし……うむー、ここは実にフリーダムな球場だ。
試合は5回が終わって4−3。千葉ロッテが湘南に1点勝ち越していて先生は結構いい感じに出来上がっていた。
「はー、こうリードしてると気持ちいいなー」
そう先生が幸せそうに呟いてるうちに、何故か球場に「ヤングマン」がかかってグラウンドの整備が始まった。
「そや、なんか自販機でジュースでも買ってこよか。泉は何がいい?」
「いやいや、いーですよ。ジュースぐらい自分で」
「何遠慮しとんねん。こーゆー時はウチに頼りや」
「んじゃ、スポーツドリンク系をテキトーに」
「了解」
そう言いながら、先生は小銭入れを手に来たときの道を歩いていった。
それにしても、またーりした一日ですなー。
選手が活躍したり、先生が野次る以外は応援歌とかも無くてのんびりしてるし、先生の意外なお弁当も食べられたし、こんな間近で野球を見られてるし……ここ最近はガッツリネトゲをやりすぎたし、たまにはこんな風にのんびりするのもいーかもしんない。
誘い方はちょっと強引だったけど、先生には感謝、感謝……あ、ギャルゲでこういうのってあんまりないなー。今度ひよりんにネタで提供してみよっか。
「泉、買ってきたでー」
「あ、はーい」
先生がぶらぶらと提げた「BAKARA」のボトルを受け取って、頬にちょこんとあてる。
陽射しがちょいと強めだから、ひんやりとしてて気持ちいいや。
先生は隣に座って、手にしていたデカブタCのフタを開けた。
「ホント、いい休日ですねぇ」
「そやろー? たまには外に出てのんびりってのも悪くないで」
「ネトゲもやりすぎると引きこもり状態ですしー」
「第一、最近の泉は授業中にも船こいでたりするからな」
「あう、気付いてましたか」
確かに、ここ最近は明け方までネトゲをして、そのまま学校へって日もあったから……そのせいか、昨日はホントぐっすり眠れたよ。
「気付かないわけないやろ。もーちょいと、生活サイクルしっかりしとき。それでなくても、お前は成績とかギリギリなんやから」
「あのー、今日は説教ナシだったんじゃ? なんかネトゲで説教されたのを思い出すよーな……」
「アホ」
「あう」
先生は苦笑いすると、私のオデコを人差し指でツンと突いた。
「教師と生徒ってのはナシって言ったやろ? 先生ってだけで注意したん思ったら、大間違いや」
そう言いながら、先生はデカブタCをぐいっとあおった。
「あん時も立場上って言うたけど、教師って立場だけじゃなくて"友達"って立場でもあるから心配して言うたんやで」
「友達、ですか?」
「そ」
確かに、学校でもネトゲでも、たまのお出かけでも先生は友達って感じではあるけど、面と向かって先生からその言葉を聞くとは。
「泉は、暴走したらそのまま突っ走ってまうからなー。五月病言うて休んだり、高良をちょいと困らせて怒らせたりとか」
「あうあうあう」
た、確かに、言われると思いっきり心当たりががががが……
「確かに柊がストップ役にはなっとるけど、いつもウチのクラスにいるって訳でもないし。他にお前を止められるのは、ウチぐらいなもんやろ」
そう言いながら、先生はボトルを弄びながら笑って、
「あー、なんかガラでもないこと言った! 今のナシ。今のナシ!」
顔をどんどん真っ赤にしていった。
「ちょ、ナシにしなくてもいいじゃないですかー!」
「自分で言うてて恥ずくなったわ。あー、今から忘れさせっからぶん殴ってもいい?」
「いやいや、先生、そろそろ試合再開ですからっ!」
「ちっ、帰り覚えてろよー」
先生はボソッと言うと、選手が散っていったグラウンドに向き直った。
でも、心配しなくてもいいですよ先生。
殴られても、ずっと私も思ってる自信がありますから。
実際、先生のことは先生ってよりも友達とか、おねーさんみたいな感じだと思ってたし。ゲームとかだけじゃなく、プライベートでも……なんてゆーのかな、タマシイが響きあうっていう感じかな。
じゃなかったら、私も海へ行くとき先生を誘わなかっただろうし、殴るのもスキンシップとは全然思わないだろうし。それに、貴重な休日も使うことはない。
「よしよしっ! 南いい肩やでー!」
そーゆー風にニコニコ笑ってる先生も、
「くぉら秦! ウチのチームの若いのにぶつけて潰すな!」
そーゆー風にドカンと怒る先生も。
「あー、折角の満塁がー……残塁グランドスラムにー……」
そーゆー風にちょっと落ち込んだりする先生も、
「内くん、ナイス三振! コバマサの後継者は君やー!」
そーゆー風に楽しむ姿を見せる先生も。
知ってました? ななこ先生。
みんな、先生のそーゆーところがスキなんですよ。
まあ、私はもっともっとスキだけどね。
でも、先生がそういうのをナシにしたいんだったら、
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! 同点ホームランくらったー!!!」
私も、言ってやんないよーだ。
* * * * *
「はうー、結局延長10回引き分けかー」
「まー気を落とさないでください。結構いい試合だったじゃないですか」
結局、試合は延長に入っても決着がつかないで6−6の引き分け。それでも、結構いい
試合だったんじゃないだろーか。
だけど、先生はすっかり疲れたように私に寄りかかってきていた。
「あそこでまさか失投するとはー……内くん、コバマサの劇場っぷりまで受け継がなくていいんやでー……」
うーん、よくわからないけどなんか実感がこもった言葉だ。
「ほら、そろそろみんな撤収してますし、そろそろ帰りましょうよー」
「うー、このままじゃ収まらん! どっか飲みに繰り出すで!」
先生はいきなり立ち上がると、拳を握って突然燃え上がり始めた。
「けど、先生」
「うん?」
「今はまだ午後3時ちょい過ぎだし、私を連れて居酒屋とか入ったら、多分お店のほうで引っかかっていろいろ面倒になるかとー」
「…………」
私がツッコミを入れると、その拳をだらんと下げて、
「……ファミレスにしとこか」
あははと、苦笑いしてみせた。
さすがに、コレで教師生活をフイにしたくないだろーしね。
「アニメイトも忘れないでくださいよ」
「わーっとるって」
そう言って、先生は私の手を取ってそっと立ち上がらせた。
「んじゃ、まだまだ時間もあるし、もーちょい付き合ってもらうでー」
うん、いつも通りってほどじゃないけど、ちょっとは元に戻ったかな。
でも、私なりに先生を元気づけるなら……
「お付き合いしますよ、"ななこせんせー"」
「おー。……って、ちょ、なにいきなり名前で呼んどんねん!」
こんなイタズラ心も、たまにはいいかなーとか思ったりして。
「いやほら、"友達"だってさっき言ってましたし。たまにはいいじゃないですか」
「お前、それは不意打ちってもんで……あー、まあええわ。
それじゃウチも……"こなた"、行くでー」
「はーいっ」
気の合う友達と過ごす、またーりとした日曜日。
まだまだいっぱい時間もあるし、ななこ先生と一緒に楽しみ尽くしますよー!