novel

● やわらかなかんけい  ●

 ふよふよとした感触が、私の胸のあたりから伝わってくる。
「みゆきさんの胸、やっぱりやわらかいやねー」
「あ、あの、泉さん?」
 目の前では、泉さんのぴょこんと飛び出た髪の毛がぴょこぴょこ動いていて……
「ふかふかー、ふかふかー」
 まるで陶酔してるかのように、泉さんの後頭部が私の胸に押しつけられています。
「あ、あはははは……」
「ちょっとこなた、いい加減にしないとみゆきも困ってるでしょ?」
 私はただ笑うしかなくて、テーブルの向かい側ではかがみさんが呆れたようにため息をついていました。
「えっと、その……あの」
「だってさ、こんなに気持ちいいのってないよ? テンピュール枕なんて目じゃないよ!」
 拳をぶんぶん振って力説する泉さん。その衝撃が、私の胸にもぷるんぷるんと伝わってくる。
 泉さんにお願いされて後ろから抱きしめてみたのですが、どうやら気に入られてしまったみたいですね。でも、恥ずかしいのも確かなことで……
「ほらほら、いつまでそんなことやってんのよ。せっかくつかさがケーキを用意してくれてるのに、それじゃあみゆきが食べられないでしょうが」
「いいもーん、私がこのままみゆきさんに食べさせてあげるもん」
「あんたは子供かっ!」
「ふぎゃっ?! い、いたいってば、かがみーっ!!」
 まるで子供のように甘える泉さんの頬を、テーブルに乗り出してぎゅーぎゅー引っ張るかがみさん。
「だ、大丈夫ですから! 少しぐらいだったら、別に構わないですよ」
「ん? そ、それならいいけど……せっかくのみゆきの誕生日なんだから、あんまり変なことしちゃダメよ」
「変なことなんてしないってば。ふーんだ」
 かがみさんの手から逃れた泉さんが、また私の胸に後頭部をぽふんっと埋めてくる。
「ふかふかっていいやねー」
「あらあら」
 うっとりとしたその声に、私は思わずそう笑ってしまいました。


やわらかなかんけい

from "らき☆すた - Lucky☆Star -"

Written by Kazuki Takatori


 きっかけは、昨日のかがみさんからのお誘い。
『みゆき、明日誕生日でしょ? つかさがケーキを焼くって言ってるから、よかったら家に来ない?』
 最初はお手数をかけるわけにもと思ったのですが、つかささんの熱意と泉さんの後押し、それにかがみさんからのせっかくのお誘いということで、その申し出を受けることにしました。
『私たちはいつもお世話になってるんだから、そのお礼ってとこ』
 少し照れたかがみさんの笑顔にダメを押された……というのもあるんですけどね。

 結局、そのままの体勢に落ち着いた泉さん。私も、かがみさんのベッドに寄りかかりながら落ち着くことにします。
 体の小さい泉さんですが、その分体重も軽いようであまり苦にはなりません。むしろ、泉さんのぬくもりが伝わってきて暖かいぐらいです。
「こなたってば、ホントに甘えたがりなんだから。まるでお子様ね」
 さっきまでの不機嫌な顔とは打って変わって、かがみさんが苦笑しながら泉さんに話しかける。
「だって、まだまだ成人前じゃん。私は立派な子供だよ」
「威張って言うな!」
「それにさ、私ってお母さんがいないでしょ?」
「……あ」
「えっと……」
「こういうのって、結構憧れてたんだよね。誰かに甘えてみるってシチュエーション」
 泉さんはあっけらかんと言っていいますけど、それは重い話題で――
「あー、でもお母さんは私そっくりの体型だったらしいし、胸ふにふにはちょっと無理か」
「なんであんたは自分で落とすかなっ!」
 って、今の泉さんにとってはそうでもなかったみたいですね……あははは。
「やー、ほら、なんかちょっと二人ともなんか固まってたし、それをほぐそーとね」
「だからってわざわざおちゃらけないの」
「ごめんごめん」
 あくまでもおどけたように言う泉さん。こういう体勢だから顔はよく見えませんけど……本当にそうなのかと、逆に気になってしまって、
「うん?」
 私は思わず、泉さんの頭をそっと撫でていました。
「おー……気持ちいいねー」
 うっとりとした声で、私に寄りかかってくる泉さん。その言葉が、私まで気持ちよくさせてくれます。
 多分、こういうのが憧れというのは本当のこと。
 ずっと離れないというのは、それだけこの体勢がお気に入りということなんでしょう。
「ケーキ持ってきたよー」
 そのまま泉さんのことを撫でていると、かちゃっとドアの音がして、トレイを手にしたつかささんが部屋に入ってきました。
「おおっ、今日のメインイベント登場!」
「つかさってば、学校に行くまでずっと下ごしらえしてたんだから」
「そうなんですか? ありがとうございます、つかささん」
「あ、あははっ、そう言われると恥ずかしいよぉ……」
 かがみさんの言葉を受けてお礼を言うと、つかささんは照れたように笑いながらかがみさんの隣に座りました。
「そういえば、こなちゃんってば何してるの?」
「こなたがね、こうしてるとか落ち着くとか言ってみゆきに懐いちゃってるのよ」
「へえ。まるでお母さんと娘さんって感じだねー」
「え、えっ?」
「あー」
 つかささんの言葉に戸惑ってる私に対して、両手をぽんと叩くかがみさん。
「確かにそうね。こうやって見ると、みゆきってお母さんって感じがするわ」
「それは、私の母に似てるということですか?」
「そうじゃなくて、立場としてのお母さんよ。雰囲気がやわらかいし、こなたを撫でてる仕草もそんな感じだし」
「お母さん、ですか」
 初めてそう言われてびっくりしてしまいましたが……私も、母と同じようにやわらかい雰囲気をまとえているのでしょうか。
「うんうん。みゆきさんって雰囲気もやわらかいし、こーやって胸もやわらかいし」
「い、泉さんっ?!」
「恥ずかしいセクハラ発言禁止!」
「ごめんごめん、ついつい本音が」
 本音って、泉さんはそんなに私の胸がお気に入りなのですか……
「だけど、みゆきさんの子供になった子は幸せだろうね」
 そう言いながら、体勢を変えて私の顔をのぞき込む泉さん。
「こんなにあったかいお母さんに育ててもらえるんだもん。きっといい子になるよ」
「ゆきちゃんがお母さんかー。いいお母さんになれそうだね」
「きっとなれるわよ。今からこんな雰囲気なんだもの」
 いいお母さん……もしもいい人に巡り会えたら、きっとなってみたいですね。
「ふふふっ、ありがとうごさいます」
「わわっ?!」
 みなさんにそう言って頂けたのが嬉しくて、私は笑いながら、思わず泉さんをぎゅっと抱きしめてしまいました。
 そして、そのまま再び頭をそっと撫でてみます。
「あらあら。まるで、こなた自身が今日の誕生日プレゼントって感じじゃない」
「えっ、私が?」
「それもいいですね」
「な、なんでそんなことになるかなぁ?」
 ちょっと戸惑っている泉さんですが、そう言いながらも私の腕の中にすっぽり収まってくれています。
「ま、いっか。今日は夜までみゆきさんの娘気分でいよっと」
 そう言うと、ちょっとこわばっていた泉さんの体から力がふっと力が抜けていきました。
 きっと、それは私を信頼してくれてることの証拠。
「じゃあ、そろそろケーキを用意しましょ」
「うんっ」
 かがみさんに促されたつかささんがケーキの載った大皿をテーブルを置くと、ふわっと甘い香りがあたりに漂い始めました。
「この間、お姉ちゃんからマシュマロの作り方を教わったから、それを使ってケーキを作ってみたんだ」
「マシュマロケーキですか」
 つかささんが言うとおり、ほどよく焼き色がついたスポンジの中から白いマシュマロの姿がちょこんと見えます。
「ケーキの上でこんがり焼けてるのもマシュマロなんだよ」
「よく焼きマシュマロというのは聞きますけど、こういう料理法もあるんですね」
「ほら、ゆきちゃんってとってもやわらかい雰囲気でしょ? それをイメージして、このケーキを焼いてみたんだ」
「私をイメージして、ですか?」
「うんっ。いつもゆきちゃんにはお世話になってるから、そのお礼にって思って」
 私の問いに、嬉しそうに頷くつかささん。
 普段はのんびりとしているつかささんですが、こういった料理の時の腕前の良さには惚れ惚れとしてしまいます。それを、私のために振るってくれたのですから……私も、とっても嬉しいです。
「でも、ロウソクを立てるにはちょっと厳しそうじゃない?」
「えっ? あっ! ご、ごめんっ! すっかり忘れてたよ……」
「つかさってば、ホントに相変わらずね」
「ううっ……ごめんね? ゆきちゃん」
「いえいえ、別に構いませんよ」
 申し訳なさそうに言うつかささんですが、私のためにがんばってくれたのですから、
むしろ嬉しいぐらいです。
「んじゃ、歌のみってことにしよっか」
「えっ? う、歌ですか?」
「そうね。歌だけでもちゃんと歌ってあげましょ」
「うんっ!」
 みなさんは嬉しそうに言ってくれていますけど、私はなんだかこそばゆくて……
「べ、別にいいですよ。歌は歌っていただかなくても」
「だーめっ。みゆきさんが生まれた記念日なんだから、ちゃんとお祝いさせてよ」
「そうそう、せっかくの誕生日でしょ?」
「いつもお世話になってるお返しだよっ」
 ……ちょっと恥ずかしいと思っていたのですが、こういう風に言ってくださるみなさんを見て、
「えっと……それでは、よろしくお願いします」
「うんっ!」
 私は、やっぱりお願いすることにしました。
 せっかくの皆さんの好意を、無駄にはしたくありませんでしたから。

「せーのっ」
 だから、お言葉に甘えてみることにしましょう。

「ハッピバースデー、トゥーユー」
 ちょっと奔放な泉さん。
 でも、人の感情の動きに敏感で、よく気を遣ってくれる楽しいお友達。

「ハッピバースデー、トゥーユー」
 きっと、私以上にしっかりしているかがみさん。
 どこかふらふらしてしまいがちな私たちを、しっかり引っ張ってくれる大切なお友達。

「ハッピーバースデー、ディア」
 いつものんびり屋さんなつかささん。
 その言葉と料理で私たちを癒してくれる、優しいお友達。

「みゆきさーん」
「みーゆきー」
「ゆーきちゃーん」

 そんな友達と出会えることが出来て……

「「「ハッピバースデー、トゥーユー」」」

「おめでとう、みゆきさんっ!」
「みゆき、おめでとう」
「お誕生日おめでとう、ゆきちゃんっ!」
「みなさん……ありがとうございますっ!」

 私は、本当に幸せ者ですね。

「とゆーわけで、みゆきさん」
「えっ?」
 ちょっと潤んだ目元をぬぐっているうちに、腕の中にいた泉さんがマシュマロケーキの載った皿を手にしていました。
「あーん」
「い、泉さんっ?」
「言ったでしょ? 今日は私が娘気分だって」
 泉さんはそう言いながら、空いている手を口元にあててくふふっと笑う。
「そ、それはそうですけど」
 慌ててかがみさんとつかささんのほうを見ると、二人も優しく笑いながら私のことを見ていました。
「いいのよ、みゆき。せっかくなんだから、たまには甘えちゃいなさい」
「そうだよ、ゆきちゃんっ」
 まったく……みなさんには叶いませんね。
「では、お願いできますか?」
「うんっ。あーん」
「あーん」
 泉さんがフォークで切り分けたマシュマロケーキを、そっと口に含む。
 すると、甘い味覚といっしょにやわらかい香りが広がって、
「おいしいです、とっても!」
「本当? よかったぁ!」
 自然と、感想が口から飛び出していきました。
「じゃあ、私たちも頂きましょうか」
「いっただっきまーす」
 それをきっかけに、いっしょにマシュマロケーキを食べ始めるつかささんにかがみさんに、泉さん。
 その表情はとってもやわらかくて……私も、いつの間にか同じように笑っていました。

 みんながいっしょに祝ってくれる、やわらかなひととき。
 私にとって、それは大切な十八歳の誕生日プレゼントでした。
 
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