novel

● 古祀  ●

 ぺりっと、ビニールに覆われたページが音を立てる。
 長い間開かれなかったそこには、ちょっと古ぼけた写真がはさまっていた。
「おー、ちっちゃい頃の二人だね」
「この時の写真、まだ残ってたんだ」
 その中の一枚に、まだ小さい頃の私とつかさの写真が写っていた。
「七五三かな? 二人とも着物着ておすましなんかしちゃって」
「しょうがないでしょ? お母さんったら、私たちを着せ替え人形みたいにして楽しんでたんだから」
 小さいときの記憶をたどりながら、ニヤニヤ笑うこなたに反論する。
「とゆーことは、この真ん中の人がおばさんなんだ。ホント、かがみの未来予想図って感じだね」
「いいよねー。お姉ちゃん、お母さんにそっくりだもん」
 写真の中で、私たちの間にいる薄紫色の着物を着たお母さんと今の私を見比べる二人。
「私も、将来はお母さんみたいな感じになるのかな」
 いつも私たちを支えてくれる姿を思い浮かべながら、私はふとそう口にした。
「表面は凛としてて、中身はツンデレ……うーん、そのギャップもいいかも」
「うっさいわね」
 まったく、こなたってばすぐそういうのに結びつけるんだから。
「それにしても、また古いアルバムが出てきたもんだね」
「いっぱいあるから、たまには虫干ししようってお父さんが出したんだよ」
「虫干しだっていうのに、ここに持ってきて見てちゃ意味が無いんじゃない?」
「ちゃ、ちゃんと後で縁側に戻すから大丈夫だよー」
 私のツッコミに、慌てながら言葉を返すつかさ。まあ、私もこういうのを見るのは嫌いじゃないけどさ。
「まあまあかがみ、たまには昔の想い出を振り返るのもいいもんだよ」
「そういうこなたは、このアルバムには関係ないと思うんだけど……」
「ロリっ娘なかがみとつかさを見て、萌え分を眼福で満タンにしようかと」
「あんたはすぐにそういうことを――あれっ?」
 ぺらぺらとページをめくっているうちに、一枚の写真に目がとまる。
「あれっ? これって……」
「なんで、こなちゃんの写真が?」
 少し色あせた、二枚の写真。
 一枚は、お父さんとお母さんの写真。そして、もう一枚には……何故か、こなたとおじさんが写っていた。



古祀

from "らき☆すた - Lucky☆Star -"

Written by Kazuki Takatori



 でも、なんだかおかしい。
 お父さんとお母さんは若い日の姿のままで、おじさんの無精髭が無い。
 そして、なによりこなたのアホ毛が無いってことは……
「……お母さん?」
 そう。こなたじゃなくて、こなたの亡くなったお母さん――かなたさんの姿だった。
「なんで、こなちゃんのご両親と私たちのお父さんとお母さんが……?」
「私だってわからないわよ」
 この写真を見ながら、首をかしげる私たち。だけど、こなたの瞳はらんらんと輝いている。それもそうか。亡くなったお母さんの写真をこんな所で見つけたんだから。
「ふふふっ、三人ともアルバムを見てるの?」
「あっ、お母さん。おかえりなさい」
 突然聞こえてきた声に顔を上げると、開いていたドアの隙間からお母さんが顔を出していた。
「あっ、おばさん。おじゃましてます」
「おかえりなさい、お母さん」
「いらっしゃい、こなたちゃん。それとただいま。つかさ、かがみ」
 こなたとつかさのあいさつに、お母さんはやわらかい笑顔で返す。
 お母さんのこの笑顔、昔と全然変わっていないんだなあ……
「ちょっとおじゃましてもいいかしら?」
「うん、いいよー」
「それじゃ、おじゃまします」
 みんなで頷くと、お母さんは嬉しそうに部屋に入ってきた。
「あらっ、懐かしいわね。この写真」
 腰を下ろしてすぐ、私たちが開いていたアルバムに釘付けになる。
「どこに行ったかと思ったら、ここに貼ってあったのね」
 そう呟いたお母さんの横顔は、どこか懐かしげだった。
「あの、お母さん、この写真って?」
「この写真はね、お父さんが神職についてすぐの頃の写真なの。ほら、まだどこかぎこちないでしょう?」
 確かに言われてみれば、緋袴を着こなしているお母さんと比べて、神職姿のお父さんはまだ表情が硬いというか……って、そうじゃなくて。
「違うの、こっちの写真」
 そう言って、私はかなたさんとおじさんが写った写真を指さした。
「こっちの写真? ああ、これはその頃に仲良くなった人たちとの写真なの」
「なりたての頃……」
 ということは、私たちが生まれるずっと前か。
「懐かしいわね。今頃二人とも、何をしてるのかしら」
「あのー、お母さん」
「えっ?」
 懐かしがっているお母さんの肩をちょいちょいと叩いて、私は写真の中のかなたさんとこなたの顔を交互に指さした。
「……まあっ!」
 それを交互に見たお母さんの表情が、ぱあっと輝く。
「まさか、こなたちゃんが二人の娘さん?!」
「は、はいっ。あのー……お父さんとお母さんのこと、知ってるんですか?」
「ええ、ちゃんと覚えてるわ。作家志望のお父さんと、小さなお母さんでしょう?」
「はいっ」
 まさか、こんなところに家族の繋がりがあるなんて……
「どう? お父さんとお母さんは元気?」
「っ?!」
 その話題に、私とつかさが同時に凍り付く。
「えっと、父は元気なんですけど……母は……」
「あら……ご、ごめんなさい」
 だんだんトーンが落ちていくこなたの言葉に、お母さんも事情を察したみたい。
「いえ、まだ私が物心つくころの話ですから」
 そう気丈に言うこなたの姿は、私たちに初めてかなたさんが亡くなっているということを話したときのようにもうあっけらかんとしていた。
 切り替えが早いというか、それとも心配をかけまいとしてるのか……
「残念ね、また会いたいなって思っていたんだけど……」
「おばさんとお母さん、仲が良かったんですか?」
 表情をかげったお母さんをはげますように、こなたが明るく振る舞ってみせる。
「ええ、少ししか会えなかったんだけどね。特に、旦那さんがにぎやかだなって覚えてるわ」
「あー」
 思い出したように笑うお母さんに、納得したようにうんうんと頷くこなた。
 もしかしなくても、それっておじさん絡みなんだろうな。
「もし、よかったら……その頃の事を聞かせてもらえませんか?」
 まるで、小さな子供がお話をせがむようにこなたがお母さんにたずねる。
「ええ、いいわよ」
 こなたのお願いに、お母さんはいつものように柔らかい笑顔を浮かべた。

 
 ――もう、二十年以上も前になるわね。
 

 *   *   *

 ざっ、ざっと、竹ぼうきの音が朝の境内に響く。
 その音といっしょに、まだ少ない落ち葉が少しずつ集まっていく。
 うっすらと黄色く色づいたそれを見ると、もうすぐ秋なんだなとしみじみ思う。
「あなた、そっちはどう?」
「ああ、こっちももうすぐだよ」
 参道を挟んで反対側にいるただおさんに声をかけると、のんびりとした声が返ってきた。
 まだ慣れないみたいだけど、白衣に袴姿も少しずつ様になってきてる。
「もうそろそろ、季節の変わり目なのかな」
「風も少しずつ変わってきたものね」
 ついこの前までじめじめしていた風も、今は少しひんやりとした風に。
 こうやって境内で過ごしていると、そういったことに敏感になるみたい。
「秋になったら、縁日に大祭、そして七五三……うーん、しっかりこなしていかないと」
「何でも堅苦しく考えないの。お父さんからしっかり習えばいいじゃない」
「そうは言うけど」
 ただおさんは生真面目すぎるってお父さんが言ってたけど、確かにそうかも。家にいるときみたいに、もっとリラックスしてもいいんじゃないかしら。
「やっぱり、神社に婿入りしたからにはしっかりしないと――」
「もうっ、あんまり肩肘張ってると、参詣に来た人たちにも伝わっちゃうわよ?」
「ははははっ……ああ、お義父さんにもそう言われたよ」
 やっぱり。
「まだまだ神職に就きたてなんだから、なんでも自分でしようとしちゃだめ。お父さんもお母さんもいるんだから」
「ごめんごめん。ダメだなぁ、ついついそう思ってしまって」
「それに、ずっと見てきた私だっているのよ? たまには、私も頼ってね」
「ああ。ありがとう、みき」
 少し苦笑いしながら、こっちを振り向くただおさん。もうちょっと、自信を持って欲しいなあ……

 私たちが大学を卒業して、はや数ヶ月。
 そして、ただおさんが私の家にお婿さんに来て数ヶ月。
 神職について間もないただおさんは、相変わらずてんてこまいの毎日を過ごしている。私はそばで支えてあげることしかできないけど……まだまだ、慣れるまでいっしょにいてあげないといけないみたい。
 二人でいられる時間が多いのは嬉しいけれど、神職は邪心を捨てて真面目にやらないと。
 そう思いながら、私たちはいつも通りに朝のお務めをこなしていた。

 一通り境内を掃き終わって、ちりとりに落ち葉とごみをまとめる。
 ここ最近は風も穏やかでいいお天気だから、そんなにごみは多くなかったけど、境内はいつも清らかにしておかないとね。
「はい、みき」
 顔を上げると、ただおさんがごみ袋を開けて待ってくれていた。
「ありがとう」
 そう言いながら、ごみ袋にちりとりの中身を捨てていく。これで、今日の朝のお務めはおしまい。
「お疲れさま」
「あなたも、お疲れさま」
 こういうやりとりも、私たちにとってお務めの一部みたいになっていた。
「今日もいい天気になりそうだね」
「ええ、絶好のお洗濯日和ね」
 やわらかい陽射しが私たちを照らして、木々に止まっている雀さんたちがにぎやかに鳴いている。こんなさわやかな朝を迎えられるのも、この職業のいいところかも。
「それじゃ、ごみ捨てついでに片付けてくるよ」
「ええ、私はお茶を淹れておくわね」
「ありがとう」
 にこりと笑って、掃除道具とごみ袋を手に納屋へと歩き出すただおさん。こういう風にさりげなく気遣ってくれるのが、ただおさんらしいところだった。
 さて、私も家に戻ってお茶と朝ご飯の用意を――
「へえ、こんなところに神社があるんだ」
「とっても大きなお社ね」
 あら? こんな時間に参詣の方なのかしら。
 見ると、参道の入口から親子らしい男性と女の子がゆっくりとこっちへ歩いてきていた。
「おはようございます」
 私はそのお二人に、ゆっくりと挨拶した。
「あっ、おはようございます」
 小さな女の子が、ちょこんとおじぎして返してくれる。ふふふっ、礼儀のいいお子さんね。
「…………」
 でも、何故かその横では男性がぽかんと口を開けて私を見ていた。
「かっ、かなたっ! 巫女さん、巫女さんだぞ! リアル巫女さん! いやぁ、朝から巫女さんを拝めるなんて、巫女さんスキー冥利に尽きるなあ!」
「あっ、あのー?」
「はあ……すいません。夫ったら、いつもこんな感じなもので」
 男性の突然の行動に呆然としている私に、小さな女の子がため息をつきながら謝ってきた。
「いえいえ、とてもにぎやかな旦那さんで――」
 って……夫? こんな小さな女の子の……旦那さ……ん……?
 確かに、手を見てみるとその手には指輪が……
「えっ、ええっ?!」
 しっ、信じられない! 親子かと思ったら、まさかご夫婦だったなんて!
「あの、驚かれたかもしれませんけど……私たち、同い年なんです」
「えぇぇぇっ?!」
 しかも、同い年……って、もしかしたら、私たちと年が近いの?! なんだか、とても信じられない……
「いいなー、巫女さんっ、巫女さんだぞっ? リアル巫女さんなんて何年ぶりだろうなー」
「そう君、少しは落ち着いて」
 苦笑いして、男性の服をくいくいと引っ張る女の子……って、いつまでも女の子じゃ失礼ね。かなたさん、でいいのかな?
「ああっ、かなた、今度巫女さんの服着てみないか? きっとかなたにも似合うと思うんだよなー」
「そういう風に暴走する人には、着てあげませんっ!」
「あうっ!!」
 ぷいっと顔を背けるかなたさんに、全てに絶望したかのように顔をこわばらせる男性。
「ごめん、かなたっ! もうしないってば、だから許してー……」
「もう、そう君ってば……」
 すがるように泣きついた男性を見て、かなたさんはため息をつきながらそっと頭を撫でてあげた。なんとなく、この二人の上下関係がかいま見えたような気がする。
「みき、どうしたん――おや、そちらの方々は?」
「あっ、あなた」
 その声に振り返ると、ただおさんが心配そうにこっちにやってきていた。もしかしたら、
ずっと私を待っていたのかもしれない。
「えっと、参詣に来られたんですよね?」
 そう伺ってみると、二人はみるみるうちに顔を赤くして笑い出した。
「いやあ、実は自転車でぶらぶら散策してたら道に迷ってしまって」
「さ、散策をしていたら……えっと、どちらからですか?」
「ここの隣の市からです」
 ここの隣……って、確か数キロはあるはず。
「もしかして、最近この辺りに来られた方なんですか?」
「ええ、実はつい先日」
 寄り添いながら照れ笑いを浮かべる二人は、言われてみれば確かに夫婦に見えた。

 二人が隣町に来たのは、数週間前。
 新居を構えてしばらく経って、この地にも慣れたということで二人で散策に出たら、こっちのほうに迷い込んでしまったらしい。
 確かに、この辺りは入り組んだ道になっていて迷いやすい。でも、線路さえ越えなければそんなに迷いにくいはずなのだけど……って、土地勘が無いと難しいかな。
 それでぶらぶら迷っているうちに、この神社にたどり着いたということだった。

「本当に、お疲れ様です」
 私は急須から二つの湯飲みにお茶を注ぐと、お二人にそっと差し出した。
「これはこれは、ありがとうございます」
「わざわざすいません」
 家の縁側に座る二人が、しずしずと私たちに頭を下げる。
「いや、困ったときはお互い様ですよ」
「ええ、そうですよ」
 いっしょに座っているただおさんと私は、それに笑顔で返した。
 こうやって出会うのも何かの縁。小さい頃から、お父さんやお母さんにそう教えられてきたから。
「それにしても、作家さんとは。なかなか大変なのでしょう?」
「まだまだ軌道に乗るまでは、難しいですね……うん、美味い」
 そう言って、お茶を一口飲む旦那さん――そうじろうさん。満足そうに飲んでくれると、淹れたこっちまで嬉しくなってくる。
「それでも、いつも側に支えてくれる人がいますから。なあ、かなた」
「だって、そう君ったらいつもふらふらしているんだもの。私がちゃんと見てあげないと」
 諭すように言うかなたさん。でも、そうじろうさんもかなたさんもなんだか楽しそう。
「はははっ、お二人とも信頼し合ってるんですね」
「そんなところです。何せ、物心ついたときにはいっしょにいましたから」
「まあ……ということは、幼なじみなんですか?」
「私もそう君も、家が隣同士だったんです」
 だから、こんなに二人の息が合っていたのね。
「ということは、もう小さい頃から結婚の約束を?」
「いえ。そもそも、つきあい始めたのは東京に来てですから」
「それまでは、ずっと幼なじみのままって感じだったんですよ」
「なるほど」
 それだけ長くいると、いっしょにいて当たり前って感じだったのかな。
「良き奥さんと、旦那さんですね」
「ありがとうございます」
 にこりと笑うただおさんに、二人も嬉しそうに微笑む。
 それを見ている私まで、頬がゆるんでくるのがわかった。
「では、お式はもう?」
「……あー」
 私がそう言うと、二人は少し表情を曇らせた。
「あまりその、余裕がなかったもので……まだ籍を入れただけなんですよ」
「そ、それは申し訳ありません」
 いけない、いきなり慶弔事を聞くだなんて……
「いえいえ。それに、駆け落ちしたようなものですし、来てくれる人もいませんから」
「かけ……おち……」
 そうじろうさんの口から告げられる、ショッキングな一言。
 さっきまでは軽そうに見えたそうじろうさんの表情が、どことなくさみしそうに沈んでいた。まるで、これまでにあったいろいろなことを思い出しているかのように。
「そう君……」
 かなたさんは膝に乗せたその手を、きゅっと握ってあげている。
 それはきっと、長い間に培われた二人の絆の証。たとえ他の人には許されなくて、いろんな困難があっても、二人でいっしょに生きていこうって決めた二人の絆なんだ。
「そうですか……でしたら、もしよろしければ祝詞を奏上させていただけませんか?」
「えっ?」
 ただおさん……?
「い、いえ、見ず知らずの私たちに、そんな」
「ええ。それに、今は普通の洋服ですし」
 うろたえる二人だったけど、ただおさんは笑顔を浮かべて語り続けた。
「知らぬ仲ではありませんよ、こうやって名前も知り、語りあっている仲ではないですか。私が、お二人の門出を祝わせて頂きたいのです」
 いつもは頼りなく見えるただおさんが、暖かいまなざしで二人を見つめている。もしかしたら、二人のことを見てただおさんも何かを感じたのかもしれない。
「そうですよ。それに、格好なんて関係ありません。こうして知り合ったのも、一期一会の縁。もし、お二人がよろしければ」
 ただおさんに続いて、私も二人に口添えする。
 この二人が祝福されないなんてこと、絶対に無い。こんなに信じ合ってる二人なんだから、なおさらそう思う。
「お二人がそう言うのでしたら……いいかな? かなた」
「ええ。本当にありがとうございます、柊さん」
 私たちの言葉に、そうじろうさんとかなたさんは少し申し訳なさそうに……だけど、それ以上に嬉しそうな笑顔で頷いてくれた。
「いえいえ。私どもがお願いしたことですから。それに――」
 そうぽつりと言って、ただおさんも私の手をそっと包んでくれた。
「みきといっしょに、あなた方のことを祝って差し上げたいと思ったもので」
「あなた……」
 手の甲から伝わってくる、やわらかな温もり。とても暖かいそれが大好きだったのを、私は改めて思い出した。
 ただおさん、私のことも察してくれていたんだ……
「さて、そうと決まったら話は早い。二人とも、少し待っててくださいね」
 ただおさんは二人にそう告げると、ゆっくり立ち上がって私に手を差し伸べてくれた。「みき、奏上の準備をしよう」
「はいっ、あなた」
 私はただおさんの手をとって、立ち上がる前にちらって二人のほうを向いた。
「よかったね、そう君」
「ああ、まさか迷った末にこんなお祝いが待ってると思わなかったよ」
 戸惑いながらも、嬉しそうに微笑みあう二人。
 そして、ぎゅっと握り合っている手。
 ……きっと、私たちもこんな素敵な夫婦になれるはず。
 そう思いながら、私はただおさんの後をついて行った。
 
 *  *  *

 感慨深そうに、二人との昔話をしてくれたお母さん。
「そう……そっかあ」
「わあ……」
 こなたはほうっとため息をついて、つかさも感激したかのように目を潤ませていた。
 私はというと……なんだか、とっても意外だった。
 かなたさんとおじさん、そしてお父さんとお母さんと、そんな繋がりがあるなんて思いもしなかったから。
「でも、残念ね。まさか本当に、一期一会の縁になってしまっただなんて」
「一期一会って、その一回しか会えなかったんですか?」
「ええ。その時に大きな仕事をしているって言ってたし、たぶん忙しくて来れなくなったんでしょうね……また、かなたさんに会いたかったんだけど」
 お母さんはぽつりと言うと、優しくこなたの髪の毛を撫でてあげた。
「でも、よかった。かなたさんと私の望みが、ちゃんと叶って」
「えっ?」
 かなたさんと、お母さんの望み?
 わけがわからなくて首を傾げると、お母さんは私とつかさを優しく見つめて……
「もしも私たちに子供が生まれたら、友達になれればいいですねって言ってたの」
「っ!」
 にこっと、嬉しそうに笑った。
 その瞬間、弾かれるようにして見つめ合う私とつかさ、そして、こなた。
 まさか、そんな昔から私たちは縁があったの……?
「きっと、かなたさんが叶えてくれたのね。あなたたちが友達になれるように」
「はいっ、きっとそうだと思います」
 たずねたときの思い詰めたような表情から一転して、晴れやかな笑顔で頷くこなた。
 もしもそうだったとしたら、なんて素敵なんだろうと思う。だって、こんな楽しい友達とめぐり会わせてくれたんだから。
「私たちがこうやって出会うのも、初めから決まってたことなのかもしれないわね」
「こなちゃんが一年生のときに助けてくれたのも、運命だったのかも」
「……つかさはともかく、かがみがそんなロマンチストなことを言うとは」
「だあっ! 人がせっかく真面目に言ってるのに!」
 あーもー、嬉しそうな顔して空気を壊すんじゃないの。あんたもどんだけあまのじゃくなのよ。
「感謝しなくちゃね、かなたさんには。こうして、こなたちゃんとも会えたんだから」
「はうっ?」
 あらら、お母さんってばぎゅっとこなたを抱きしめちゃって。まさか、お母さんもこなたがお気に入りなのかな?
「もしよかったら、今度そうじろうさんとも会わせてね。ただおさんも、きっと会いたいと思ってるから」
「はっ、はい。でも、あのー……いったん放してくれません? その、胸っ、胸がっ!」
「ふふふっ、だーめっ」
「あ、あのっ、かがみ? つかさ? へるぷみー!」
 おろおろしながら私たちに助けを求めるこなただけど、
「ごめんね、こなた。お母さん、一度かわいいのを見つけたら放したがらないから」
「しばらくは、そのまま抱きしめられてあげてねー」
「そっ、そんなぁ……」
 私たちがそう言うと、あとはもうされるがままになっていた。
 まあ、いいじゃないの。お母さんはきっと、かなたさんの面影をこなたに見てるんだから。
 それに……かなたさんへのお礼なのかもしれないしね。

 私とつかさは、そんな二人の姿をしばらく楽しく眺めていた。
 心の中で、かなたさんに今日のことを感謝しながら。
 
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Copyright (c) 2008 Kazuki Takatori All rights reserved.
 

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