同じ空の下で

novel
 のーみそいっぱいに詰まった近代世界史の出来事を、こぼれないうちにプリントに書き込んでいく。
 ファーヴァー・モラトリアムの次はニューディール政策。産業復興はNIRAで、農業調整はAAAAで……ううっ、黒井先生ならともかく、業者のテストだとしつこく出してきそうだな。
 みゆきさんが作ってくれたテキストは、よくまとまってて助かるよ。やっぱり、そこらへんのツボを心得てるのかも。
「みゆきさん、出来たよー」
「はい。では、答え合わせをしますね」
 そう言うと、笑顔で私のプリントを受け取るみゆきさん。でも、今は審判を受けてるみたいで、その笑顔がちょっと怖い……
「ふぅ」
 一息つきながら窓の外を見上げれば、風鈴の涼やかな音。網戸からは、少し涼しい風が流れ込んでいた。



同じ空の下で

from "らき☆すた - Lucky☆Star -"

Written by Kazuki Takatori



「でもさー」
「うん?」
 私の声に、先にプリントを終わらせたかがみが顔を上げる。
「毎年思うんだけど、なんで夏休み明けに実力テストなんかやるんだろうね」
「そりゃ、夏休みにさぼってないかどうか確認するためでしょ」
「むぅー……そんなの個人個人の勝手なのに」
「そうは言うけど、七月にテストがあってから十月まで間が空くじゃない。そのブランクを埋めるためにも必要なんじゃない?」
「なるほどー」
 ぱたぱたとうちわで扇ぎながら答えるかがみ。そりゃごもっともだけど、私としては――
「でも、めんどくさい」
「その気持ち、今回はわからなくないわ……」
「受験対策だからって、今までの全部を範囲にすることないじゃん」
 それでいて、マークシートじゃなくて全部が全部記述式だっていうんだから。
「プレ入試だと思えば、まだ気が楽なのかもしれないけどね」
 そう言いながら、見合わせていた視線をつかさのほうに向けた。
「はうー……きびしーよー」
 あーあー、つかさってばすっかりやられちゃって。
「ほら、つかさ。あまり無理しないで、そろそろ一休みしたら?」
「ううっ、ごめんね……ゆきちゃん、ちょっとひとやすみさせてー」
「あ、あまり無理なさらないでくださいね」
 あらら。つかさってば、みゆきさんがそう言ったとたんにばたんきゅーって感じで突っ伏しちゃったよ。
「でも、こなたもつかさも始業式間際にテストのことを思い出すだなんて」
「いやー、すまんこってす」
 今年はちょっとは勉強したけど、そのせいでテストのことが頭からすぽーんと抜け出ちゃってた。そして、同じようなつかさといっしょにかがみとみゆきさんに泣きついたんだけど……まさか、ここまで徹底してるとは。
「あの、泉さん。大変申し訳ないのですが、農業調整はAAAAではなく、AAAですよ?」
「ま、またかっー!!」
 午前中の英語でも余計なものをつけちゃってたし、頭の中がぐちゃぐちゃだー。
「こういうケアレスミスは、ちゃんと覚えていけば大丈夫ですよ」
「頭がパンクしそうっす」
「それだけ、毎日の積み重ねが大切ってことよ」
 陵桜秀才コンビに言われると、救われてるよーなちくちくココロが刺されてるよーな。
「でも、こういう風にみんなで勉強できるのっていいよね。
 参考書で勉強してるときって、わからなくなったら答えを見ておしまいだけど、みんなでいっしょだと過程とかわかりやすく教えてもらえるんだもん」
「つかさってば、夏休みとか冬休みのたびにそうやって言うんだから」
 顔を上げたつかさの言葉に、苦笑いして応じるかがみ。でも、私もつかさと同じようにみんなに助けられてるみたいなもんだよね。
「でも……今年で、それもおしまいなんだよね」
「ああ……そっか」
 つかさの表情が曇るのといっしょに、私たちも言葉をにごす。
 来年になったら、私たちは別々の道を進むことになる。
 だから、こうやっていっしょに勉強をするのもあと少し。
「でも、会えないってわけじゃないんだから」
「それはそうだけど……高校生のこの時間に、いっしょにこういうことができなくなるんだなって思うと、なんだかさみしくって」
「確かに、この三年間ずっといっしょでしたからね」
 みゆきさんも、感慨深そうにぽつりと呟く。
「いつの間にか知り合って、いつの間にか仲良くなって、ここまであっという間だったものね」
「そうだねー」
 長かったようで、あっという間だった三年間……それも、もうあと半年でおしまい。そう思うと、なんだかちょっとしんみりする。
「私ね、このごろふと思うんだ。ゆきちゃんやこなちゃんと小さい頃から出会えたら、もっと長く遊べたんじゃないかなって。もっともっと、たくさんの想い出が出来たんじゃないかなって……」
「つかさ……」
 いつもぽけっとしているつかさが、こうやって自分のココロをさらすのは珍しい。
 まだ小さい頃の私が、アルバムで見たようなちっちゃいかがみとつかさ、みゆきさんといっしょに遊ぶ姿を想像してみると……確かに、なんだか楽しそう。
 もっと早く、みんなと出会えたらよかったのになって、私まで思えてきた。
「しょうがないじゃない、こういう運命だったって思うしか」
「お姉ちゃん……でも――」
 半ば諦めたようなかがみの言葉に、抗議の声を上げるつかさ。
 でも、かがみは穏やかに笑ってみせて――
「だけど、この三年間だって十分楽しかったし、これで私たちの仲がおしまいってわけじゃないでしょ? これからもいっぱい、出会う前の分まで想い出をつくればいいじゃない」
 優しく、つかさの頭を撫でてあげた。
「そっか……そうだよね」
 さっきまで曇っていた表情が、ぱあっと明るくなるつかさ。
「さすがかがみお姉ちゃん、いいこと言うねー」
「ば、ばかっ。当たり前のことを言っただけでしょ?」
 私がちょっとおどけて言うと、かがみは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
 でもね、かがみ。その当たり前のことをちゃんと言えるっていうのが、いいお姉ちゃん
ってことなんだと思うよ?
「ふふふっ、照れることは無いと思いますよ?」
 おやおや、みゆきさんまで。
「まだまだ高校生活も続きますし、きっとその先もたくさん会えますよ」
「うんうんっ。電車でも電話でも、ココロでも繋がってるし、すぐ会えるんだしさー」
「そう考えると、まだまだみんなといっしょにいられるんだね」
「そういうこと。だから、あんまり寂しがるんじゃないの」
 さっきまでちょっとしんみりした雰囲気が、一気に明るくなる。やっぱり、私たちはこうでなくちゃ。
「だよねー」
 そう思いながら、勉強で疲れた体をくうっと伸ばす。
 そのままこてんと仰向けに寝転びながら、私は窓の外を見上げた。
 目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる青空。
「――まーたー、なつがーくーるー。ぎーんーいーろにー、ひーかーるー」
 なんとなく歌いたくなって、頭に浮かんだ一節を口ずさんでみる。
「こなたってば、またギャルゲの歌?」
 いつも通りの、かがみの素早いツッコミ。だけど、私はそのまま歌を続けていく。
「みーなーもにうーつーすー、ふたりーぶーんのー――」
 ……いや、違うか。
「よにんーぶーんのー、かーげー」
「どうしたのよ、歌い直しちゃって」
「うーん、なんとなく」
「でも、なんだかいいわね。その歌詞」
「でしょ?」
 なんとなく、私たち四人らしいかなって思って。
 夏が来るたびに、四人で遊びに行ったり、海にお出かけしたり、いっしょに勉強したり、花火を見に行ったり――。
 全部を見るとさみしげな歌詞なんだけど、この部分はとってもあたたかい感じがする。
「ねえ、来年になったらどこか旅行とか行かない? ちょっと長く休みをとってさ」
「あっ、いいねー。大学生とかになったら、お父さんとお母さんも許してくれるよね」
「いいですね。いっしょに北海道や沖縄に行ってみたいです」
「いいよいいよー。コミケが終わった後ならなおべりーぐっど」
「はいはい、こなたの日程もちゃーんと考えておくわよ」
「さすがはかがみ様っ!」
 ――こういう夏休みの一ページを開いてるような、そんな歌詞みたいでさ。
「それじゃあ、来年ちゃんと旅行に行けるよう、今からがんばらないとね。つかさもこなたも」
「ううっ、努力しますー……」
「頭がフットーしそうだよー……」
「ほらほら、二人とも今からそれでどうするのよ」
 苦笑いするかがみにつられるように、私たちもいっしょに笑い出す。
 そんな、夏休み最後の日。

 風鈴の優しい音色が、私たちにちりんとささやいていた。
 
novel
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