ガチな先輩×妄想後輩

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「あ、あはははは……もう、もうダメッス……」
 教室の片隅で、田村さんがさっきからうなってる。
「あ、あの……」
 それを見てるみなみちゃんはおろおろしてるし、私もどうしていいのかわからない。だって、なんか黒いオーラが出てきて近づけないよ……
「デッドライン、デッドラインなんてこのヨからナくなってしまえばいいんッスよ……」
 あうぅっ、言葉がなんかカタコトになってきてるよ?!
「ど、どうしようみなみちゃん! 天原先生呼んでくる?」
「……そのほうが、いいかもしれない」
「じゃあ、私が行ってくるね。みなみちゃんはそこで田村さんを見てて」
「わかった」
 みなみちゃんが田村さんに駆け寄ったのを見て、私も教室を出ようと駆け出す。



ガチな先輩×妄想後輩

from "らき☆すた - Lucky☆Star -"

Written by Kazuki Takatori



「おいーっす、ゆーちゃ……って、どったの?」
「あ、お姉ちゃん!」
 その途中で、お姉ちゃんとかがみ先輩につかさ先輩、高良先輩がひょっこりと教室にやってきた。
「あのね、田村さんの様子がおかしくて……」
「ひよりんの様子が?」
 お姉ちゃんはぱたぱたと田村さんと岩崎さんのそばに駆け寄ると、そっと顔を覗き込んだ。
「あー……多分、この時期特有の病気だよ」
「この時期特有の?」
「うん。ほら、よく聞いてごらん」
 お姉ちゃんに言われて、私はぶつぶつ言っている田村さんの言葉に耳を澄ました。
「まっシロッスよ。ゲンコー、まっシロ。アハハ、スミのイッテキもオちてりゃしないッス。
 ……ん? オちて? アハハ、そっか、フユコミの本、オちるんッスネ? ひょひょひょひ)……」
「この分だと、冬コミの原稿が全然進まないままここまで来ちゃったみたいだね」
「げ、原稿かぁ。でもよかった、体調のほうは悪くないんだ」
「いやいや、それは甘いヨ?」
 私がほっと胸を撫で下ろしてると、お姉ちゃんはちっちっちっと人差し指を左右にゆらした。
「なにせ、原稿が終わるまではこういう精神状態が続くだろうから……とゆーか、よくこの精神状態で学校に来れたね、ひよりんは」
「ラノベでも作者がこういう状態をかいま見せることはあるけど、まさかこんな風になってるとは……」
 お姉ちゃんもかがみ先輩も、呆れたようにつぶやいている。そういえば、今朝からふらふらしてたっけ。
「では、先生は呼ばなくても……?」
「そだね。先生を呼ぶよりも家に連れてったほうがいいかもしれないから、みんなで一緒に送っていこっか」
「そうね、そのほうがいいかも」
 そう言いながら、お姉ちゃんとかがみ先輩はしゃがみ込んで田村さんの肩をゆさゆさとゆすり始めた。
「おーい、ひよりーん。もう家に帰ったほうがいいよー」
「田村さん、大丈夫? 送って行こうか?」
 二人の声に、田村さんの首がギギギギギと音がするみたいにゆっくり顔を上げる。
「……イズミセンパイ? ヒイラギセンパイ?」
「おー、こりゃ重症だね……」
 こういうのには詳しいお姉ちゃんが重症だっていうんだから、よっぽどのことなのかな。
「イズミセンパイ、ヒイラギセンパイ……そのアイダにハイるのは……かける、バッテン、エックス、ペケ、そのココロはがっちゅん!」
「ひ、ひよりん?」
 あ、あれ? 田村さんが二人のことを見た瞬間、メガネがキュピーンって光り出したよーな……?
「そうッス、そうッスよ! よく考えればここはネタがいっぱいじゃないッスか!」
「あの、ひよりーん?」
 田村さんはいきなり立ち上がると、顔を真っ赤にして私たちのことを指さし始めた。
「ボケツッコミな百合カップルに凸凹百合カップル、歩く萌え要素の先輩あーんど後輩! どう見ても天然です本当にありがとうございました! プチサイズの格闘家にお料理属性! 母性あふれる知恵袋にツンデレ巫女さんにほのぼの巫女さん! 小さなお姫様に孤高の騎士!
陸上大好き元気娘に彼氏持ち! あーもードンドコネタがあるじゃないッスか!!」
「わわっ?! ひよりんが壊れたっ!!」
「壊れるっていうか、これって限界越えちゃったんじゃない?!」
 あうぅっ、田村さんってば暴走し始めちゃったよぉ!
「しかも名前とかもそうッスよね! 小早川といえば逮捕の美幸! 柊といえば美冬こと今は石村知子! 泉といえばパトレイバーの野明! 岩崎というば漫画家岩崎つばさ! 日下部といえばジャンヌのまろん! あーもーネタだらけじゃないデスカっ! くそっ! うらやましぃなぁコンチクショウ!」
「それを言うならひよりんだってゆかりんじゃん!」
「あ、あのっ、あの……」
「ど、どうしよう……」
 岩崎さんも私もどうすればいいかわからないし、お姉ちゃんたちまであたふたしちゃってるし……
「ひょっひょっひょっひょっ、こうなったらみーんなまとめてネタに――」
「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁにメーワクかけてるんだこのドアホッ!」
「はぷしゅっ?!」

 すぱぁんっ!!

「た、田村さんっ?!」
 いきなりすごい音がしたかと思うと、色黒で金髪な人がハリセンを手に仁王立ちしていた。
「まったくもー、同人やるときゃ人様にメーワクかけるなって言っただろ! とっとと家に帰って、ネタ練りするならさっさと寝て起きてからにしろ! 徹夜は厳禁だ!」
「でも、ゲンコーが、ゲンコーが……」
「そんなの自業自得! 特急料金払って納得行くまでやれ!」
「はうっ……」
 す、すごい、あんなに暴走していた田村さんを鎮めちゃうなんて……
「あー、ゴメンね。ウチの部のひよりんが迷惑かけちゃったみたいで」
「い、いえ、そんなわけでも」
『ウチの部』ってことは、アニメ研究会の人なのかな?
「さて、これから連れ帰って説教……って、あっ! お前はこの間のちびっ子!」
「ふぇっ?!」
 金髪の人が、いきなりお姉ちゃんをびしっと指さした。
「ちくしょうっ! 今日は無理だけど、今度会ったらバーチャでギッタンギッタンにしてやるからな! 覚えてろよっ! さあひよりん、帰ったら説教タイムだ!」
「やめてぇぇぇっ! 八坂先輩、それだけは、それだけはぁぁぁぁぁぁっ!」
 金髪の人――八坂先輩に引きずられて、田村さんの声がどんどん遠ざかっていく。
「……あんた、あの子って後輩みたいだけど、面識あるの?」
「さ、さあ? バーチャってことは、ゲーセンの対戦でボコッた子かも」
「あ、あんたねぇ……」
 二人して、というか、みんなして二人が言った方向を見たままぽかーんとしてる……なんだか凄いなぁ、あの二人って。お姉ちゃん以上にパワフルだよ。
「帰ったら、お前の兄さんにも報告すっからな!」
「たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「……が、がんばってねー」
 廊下の端っこから聞こえてくる二人の声に、私はただそんな声援を送ることしかできなかった。

 すごいところなんだなー、アニメ研って……
 
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