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● てけてけかなたさん --- エピローグ ●

「んっ……」
 目に飛び込んできた光に、寝返りをうつ。
 光って……朝なのかな……って、朝?!
「っ!」
 その事実に、眠気が一気に覚めて起きあがる。
 そして、枕元にあったPCを見たけど……
「あっ……」
 そこには……ただ、デスクトップの画面が映っていた。
「おはよう、こなた」
「……お父さん?」
 見ると、お父さんが隣の布団に座ったまま私のほうを向いていた。
「ずっと、起きていたの?」
「ああ」
「お母さんのこと、見送ったの?」
「もちろん」
 カーテンの隙間から入ってくる陽の光は、お父さんの寂しそうな笑顔を照らしていた。
「笑顔で、手を振りながら行ったよ」
 そう言いながら、お父さんはそっと光のほうを見上げた。
 そこはきっと、お母さんが還っていったはずの場所。
「そっか……」
 私も、お父さんと同じようにそこを見上げる。
「最後に、伝言だってさ」
「……なんて?」
「女の子にうつつを抜きすぎないこと」
「……それは、お父さんにじゃん」
「次に、一夜漬けはほどほどに」
「うっ、それは……」
「それと……元気に暮らしてね、だって」
「元気に……もちろんだよね」
「ああ、元気に暮らさないとな」
 まったく、お母さんらしいや。最後まで私たちのことを心配してるなんて。
「かなたも、きっと見てるからな」
「そうだね」
 ずっと見守ってくれるって、約束してくれたもんね。
「さてと、そろそろゆーちゃんを起こしてあげようかね」
「そうだね。ゆーちゃんにも、ちゃんと伝えてあげないと」
 私は立ち上がって、ゆさゆさとゆーちゃんのことを揺り動かした。
「ゆーちゃん、朝だよ。ゆーちゃーん」

 
 こうやって、私たちはまた普通の日常に帰っていく。


*   *   *


 
 「おーい、弁当代持ったか?」
「うん、ちゃんと持ったよ」
 ポケットのお財布を確認しながら、トントンと革靴のつま先で土間を蹴る。よし、これで準備OK。
「済まんなー、弁当作るのすっかり忘れてたよ」
「ごめんね、お姉ちゃん」
「いやいや、大丈夫だよ。私だって頭からすぽーんと抜けてたしさー」
 どうしてもぼーっとしちゃって、頭の中にちゃんと物事が入らない。うーん、こりゃ夏期講習もやばいかな。
「ほんじゃま、行ってくるねー」
「おう、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい、お姉ちゃん!」
「はーいっ」
 見送ってくれている二人にしゅたっと手を上げて、私は玄関のドアを開けた。
「おおっ、いい天気だなー」
 見上げてみれば、雲一つ無い青空。
 風もカラッとしてて気持ちいいし、走ってるうちにぼーっとしたのも治るかな。
「んしょっと」
 自転車のスタンドを上げて、ころころと自転車を転がす。
 あとは門を開けたら、外に出て閉めて……
「…………」
 そう思ったまま、門にかけた手が止まる。
 ……そっか。
 ずっと、見守ってるって言ってたっけ。
 もしかしたらと思いながら、ドアに向かって小さく手を振る。
 
「行ってきます」

 そのまましばらくドアを見つめて……えいやっと、自転車に飛び乗った。
 さてっと、心配かけないように、今日もがんばりますか!
 自転車のペダルを踏み込んで、私は通学路をゆっくりと走り出した。



『行ってらっしゃい』



 翼を生やしたお母さんが、玄関の前で手を振ってる姿を心に焼き付けながら。











てけてけかなたさん


Written by Kazuki Takatori


- おしまい -









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