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● てけてけかなたさん --- その15・こえをきかせて ●

『ええ、こなたの可愛らしい声、ちゃんと聞こえるわよ』
 そのメッセージを見た瞬間、私はあわててヘッドセットをつけた。
「そんな、ホントに……あははっ、ホントに聞こえるんだっ!」
『まさか、こなたの声を聴くことができるなんて……夢みたい』
 画面の中のお母さんも、嬉しそうに笑ってくれている。
 だけど……それは声じゃなくて、文字だけのメッセージ。
「ねえ、お母さん」
『なあに?』
 もしかしたら困らせちゃうことかもしれないけど、
「一緒に、おしゃべりしてみようよ」
 私は、そう言わずにはいられなかった。



てけてけかなたさん

その15・こえをきかせて

Written by Kazuki Takatori



 その言葉に、お母さんは苦笑いすると、
『私は、喋るっていうことを忘れてしまったから……多分、無理ね』
 そう言って、悲しそうに目を伏せた。
「むー、そんなこと無いと思うんだけどなー」
『最後にちゃんと喋ったのは、もう18年前だもの』
 うーん、唄を忘れたカナリアみたいな感じかー……確かにブランクはあるかもしれないけど、せっかくお母さんと話せたんだから、お母さんの声を聴いて、ちゃんとお母さんとおしゃべりしたい。
「こうなったら、予告ナシでお父さんを呼んでびっくりさせてみるとか――」
「そっ、それだけはダメーっ!!」
 ……ん?
「あ」
「……あの、おかーさん?」
「あ、あはははははは。なんか、喋れちゃったみたい……ね」
 私がジト目で見つめると、お母さんは頬に手を当てながらそっぽを向いて笑っていた。
 そして、ヘッドホンからは鈴が鳴るような心地いい声。
「もー、ちゃんと喋れるんじゃん。ホント、お父さんの名は偉大やねー」
「その事はなかったことにして……というか、そう君にはヒミツにしてね、絶対に」
「ふっふっふっ、どうしよっかなー」
「はぅ……」
 おろおろして、懇願するように見上げるお母さん。ううっ、そのちんまりとした姿で見られてると罪悪感が……
「わ、わかったってば。お母さんにもちゃんと考えがあるんだろうし、呼ばないよ」
「本当、約束ですよ?」
 お父さんの名前を出すことを、どうしてここまで拒否するのかはよくわからない。
「でも、さ、私にだけ会って、お父さんにだけ会わないっていうのは……あんま、嬉しくないよ?」
「わかってるから……今は、まだそっとしておいて」
 儚げに笑って、小さく鈴が鳴るような声でお母さんがつぶやく。
「うん」
 私は苦笑いしながら頷いたけど、ココロの中はまだモヤモヤしたまま。
 まだとは言うけれど、お母さんが来てからもう一週間以上経っているから、そんなに、時間は無いはず。タイムリミットまでには、お父さんにちゃんと会わせてあげたいんだけど……
「よーしっ! それじゃーそのかわり、今夜はとことんおしゃべりするからね!」
「えっ? お、おしゃべり?」
「お父さんのこととか、いっぱい聞かせてもらうんだもーん」
 その前に、今できるだけのことはしておこう。
「もうっ、こなたったら……わかったわ、初めてのおしゃべりだものね」
 しょうがないわねとばかりに、笑いながら言うお母さん。
 ――絶対、この声と笑顔をお父さんにも届けてあげるんだから。覚悟してよねっ、お母さん。
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