novel

● 歩み  ●

鷲宮、鷲宮です》
 自動アナウンスが流れて、人がどんどん電車から降りてゆく。
 そんな中、学校帰りの私はというと、
「ああっ、もう、起きなさいっての!」
「くー」
 眠っているつかさを抱きかかえて、電車から降ろそうとしていた。
 ……この子、育ってないと思ったら案外育ってるじゃないの。




歩み

from "らき☆すた - Lucky☆Star -"

Written by Kazuki Takatori




「よいしょっ、と……」
 なんとかつかさをベンチに座らせて、私も隣に座る。
「すー……くー……」
「まったく、人が苦労したってのに幸せそうに寝ちゃって」
 ぷにぷにとほっぺたをつつきながら、ちょっぴり苦笑い。
「むにゅー」
「あははっ、相変わらずやわらかいわねー」
 昔いっしょの部屋で寝てて、起こすときはいつもこんなことしてたっけ。つかさもその時みたいに、変な寝言を言いながら私の指を避けようとしているし。
 なんだか懐かしくって、ついついつつき続けちゃうけど、そろそろここら辺で切り上げて、と。
「とりあえず、電話しておこうかな」
 私はカバンからケータイを取り出して、電話帳から家の電話番号を選択した。

 プルルルルルルルッ、ブルルルルルル……ガチャッ

『はい、柊です』
 何回かコールが鳴って出たのは、まつりお姉ちゃんだった。
「あ、お姉ちゃん? 私」
『なんだ、かがみか。どうしたの? 帰り遅くなりそうなの?』
「いや、それがね、つかさってば電車の中でずっと寝てて、今も眠ってるのよ」
『あっちゃー。つかさってばホントに寝ぼすけさんだね』
 呆れながら笑うお姉ちゃん。そういえば、私たちが小さいときも起こすのに苦労してたんだっけ。
「もう駅にいるんだけど、つかさが起きるまで待ってるから」
『あーもうっ、そんなまどろっこしいことしてないで起こしちゃいなよ。主役が帰ってこないんじゃ始まらないんだからさー』
「さすがにそういうわけには、ね。つかさ、昨日は試験勉強がんばってたから」
『ほほー、なかなか優しいお姉さんっぷりじゃーないですか』
「も、もうっ! お姉ちゃんってばからかわないでよ!」
 こうやってすぐからかうのが、まつりお姉ちゃんの悪い癖。ほんと、いのりお姉ちゃんよりタチが悪いんだから。
『あははっ。まあ、りょーかい。起きなさそうだったら、また電話するのよ』
「うん、わかってる」
『じゃ、私はまだ準備があるから。じゃあねー』
「はーいっ」
 私がそう言うか言わないかのタイミングで、お姉ちゃんは電話を切った。ホント、いつもあわただしいお姉ちゃんだ。
「にゅー……すー……」
 ケータイをバッグにしまいながらつかさを見ると、相変わらずかわいい寝息をたてている。
 学校でテストが終わった後、みんなで糟日部の図書館で月曜分の復習をしていたらもう夕方。昨日・一昨日とずっと根を詰めてたから、つかさも気が抜けちゃったのかもしれない。さてさて、あとどのぐらいで目が覚めることやら。
 そんなことを思いながら、ふと駅からの街並みを眺める。
「こうやって改めて見ると……すっかり変わっちゃったわね、この町も」
 なんとなく昔の風景が懐かしくなって、私はぽつりとつぶやいた。
 駅からすぐに見える住宅地の景色もすっかり様変わりしていて、古い木造の家と新築の
三階建ての家がまぜこぜになっている。それに、この駅も立派になっちゃって。
「そりゃ、18年もいればすっかり変わっちゃうか」
 この町で私とつかさが生まれてから、もう18年。

 今日で私とつかさは、18歳になる。

 実感は全然無かったけど、こうやってまわりを見回してみると自分が成長したんだなってつくづく思う。
「この子も、なんだかんだでしっかり成長したし」
 ちょっぴりドジなのは相変わらずだけど、それでも自分の"夢"をしっかり持ってこれからの道を見つめているつかさ。私はそれが誇らしくて、ちょっぴり寂しかった。
 二人で一緒の道を歩けるのは、あと少しだって思っちゃうから。

 生まれてきたときから、私たちはずっと二人だった。
 遊ぶときも、勉強するときも、何もかも二人でずっといっしょ。
 小さい頃は煩わしく思ったこともあったけど、今はつかさがいないとなんだか不安になる。いつかいのりお姉ちゃんも言ってたっけ。「双子は身体は二つでも、魂はどこかで繋がっている」って。
 だけど、そんな私たちも、あと半年もすれば離ればなれの道を進むことになるわけで。
「でも、なーんか全然実感がわかないのよね」
 こうやってつかさと登校して、つかさといっしょに勉強して、つかさといっしょにお出かけして……ずっと、こんな日々が続くんだって、今でもずっと思ってる。
 つかさといっしょにいない日々なんて、まったく考えたことは無かったから。

 相変わらず、小さい寝息を立てているつかさ。
 街並みを眺めている間に陽もすっかり傾いて、夕暮れも近い。かわいそうだけど、そろそろ起こしたほうがいいかな。
「つかさー、起きなさーい」
「にゅ……あと5ふんー」
「その口癖はやめなさいっての。ほら、起きなさーい」
「むにゅー」
 つかさの両頬をつまんで、ぐにゅぐにゅ引っ張ったりしてみる。おー、意外とよく伸びるわね。
「もー、やめてよおねーちゃんー……」
 一分ぐらいそうしていると、つかさは目を擦りながら抗議の声を上げた。
「つかさが寝ぼすけだからでしょ」
「ふぇっ? あ、あれ? ここは?」
「鷲宮駅よ。つかさってば、電車の中でぐーぐー寝ちゃってるんだもの」
「ええっ?! そ、そんなことしてないよー」
「してなかったら、こんなところで座ってないっての。ほら、時間見てみなさい」
「はうっ、もう6時過ぎ?!」
 私がホームにある時計を指し示すと、つかさはそれを見てびっくりしたように身じろぎした。
「あんたってば、1時間近くここで寝てたのよ」
「ご、ごめんねっ、お姉ちゃん」
「あーもー、気にしないの。昨日一昨日ってがんばってたんだもん、しょうがないわよ」
 申し訳なさそうに言うつかさだけど、そのがんばりはよく知ってるから別に責めたりしない。
 むしろ、がんばっているつかさを誉めてあげてもいいぐらいだけど、
「だけど、まさかつかさを電車から引きずり下ろすことになるなんてねー」
「ひ、引きずり下ろしたの?!」
「そう、こうずるずるずるっと」
「ひどいよー、スカートがほつれちゃうのに……」
「冗談よ、冗談」
 こうやってからかいたくなるのも、この子の損なところっていいますか。
「ひどいよー……」
「寝ぼすけさんにちょっとしたおしおきよ。どう? 目が覚めた?」
「うーん……まだ、ちょっと眠いかも」
 そう言うつかさの目はまだとろんとしていて、またいつでも眠りそうだった。
「じゃあ、何か飲み物でも買ってこようか?」
 このまま帰ってもふらふらして危なっかしそうだと思った私は、少し時間をおくことにした。
「ううん、大丈夫。それよりも」
「なに?」
「もうちょっとだけ、こうしてたいな」
 つかさは嬉しそうに笑いながら、私にぴったり寄り添った。
「そっか」
 夕方の涼しい空気とつかさがいるっていう安心感が、とっても気持ちいい。
「お姉ちゃん、私が寝てる間何してたの?」
「ずっと、ここから外を眺めてた」
「ここから?」
「そう、町の景色をね」
「ふうん……」
 つかさは小さくつぶやいて、さっきの私と同じように外へと目を向けた。
 街はすっかり夕陽のオレンジ色に染められて、にぎやかだった駅前の人通りも少しずつ減っていた。
「すっかり変わっちゃったなーって、見てたら思っちゃった」
「すっかり、かあ」
「まあ、もう18年も住んでれば当たり前だけどさ」
 変わらないものなんて無いって言ってたのは、なんのドラマだったっけ。
「あと半年ちょっとで、私たちも卒業しちゃうし」
 でも、それを確かめてしまうとちょっと寂しいのは何故なんだろう……
「時の流れって、早いわよね」
「だけど、変わらないものってあると思うよ?」
「うん?」
 ふとつかさを見ると、相変わらず眠そうな目でこっちを向いていた。
「家族の関係なんかは、変わりたくないって思えばずっと変わらないと思うの」
 ああ、そうか。
「だって、お姉ちゃんが私のお姉ちゃんっていうのはずっと変わらないでしょ?」
 確かに、言われてみればそうだ。
 いっしょに生まれたときから、私たちはずっと姉妹なんだから。
「私も、これからもずっと私のまま。だから、これからもずっといっしょだよ」
 つかさのやわらかい笑顔が、心に積もっていた寂しさを溶かしていく。
「そっか……そうよね」
 私によく泣きついてきたつかさが、こんなしっかりしたことを言うなんて……ホント、どんどん成長していっちゃうんだから。寂しくなるヒマもありゃしない。
「これからも、ずっと一緒よね」
 そう言って、私はつかさの手をそっと握った。
 それは、小さな誓いの証。
 たとえ離れていたとしても、想いと想い出はずっと一緒だっていう、小さな約束。
「うんっ」
 嬉しそうな、つかさの笑顔。
 それを、私はずっと大切にしていきたいから。

 私たちはそのまま、日が暮れかける街並みをゆっくりと眺めていた。
 こんな時間も、ささやかな想い出になるはずだから。

「かがみー、つかさー」
「うん……?」
「あ、お母さんだー」
 外のほうを見ると、街灯を浴びたお母さんがにこにこ笑って手を振っていた。
「あらあら、つかさってば、こんな時間まで寝ていたの?」
 フェンスの近くに歩み寄ると、お母さんがからかうように言った。
「はうっ、ち、ちがうよー!」
「目が覚めてから帰ろうって思ってたから。もしかして、迎えにきてくれたの?」
「そう、寝ぼすけさんを起こそうと思って」
「あうー……」
 ますますちくちくいじられるつかさ。お母さんも、つかさを起こすのに苦労してるからね。
「ふふふっ、冗談よ。そろそろまつりもいのりもパーティーの用意が終わるみたいだから、迎えに行ったほうがいいって思ったの」
「あっ、もうそんな時間なんだ」
 時計を見ると、確かにもうそろそろ時計の針は7時になろうとしていた。
 こうやってると、なんだか昔のことを思い出す。
 二人で遊びに行って、夕方になるとお母さんが迎えに来てくれたっけ。
 街灯に浮かぶお母さんの姿が、あのころの姿にどことなく重なる。でもまさか、18歳になった日にまたやってもらうだなんて。
「つかさの言うとおり、さ」
「うん?」
「変わらないものって、あるかもね」
「あははっ、そうでしょ?」
 私たちの関係は、ずっと変わることはない。
 大切な家族だっていう関係も、そして、かけがえのない姉妹だっていう関係も。
「お母さん、ちょっと待っててねー」
「あわてないで、ゆっくり来るのよ」
「大丈夫、私がちゃんとついてるから」
「ううっ、私ってそんなに頼り無いかなぁ」
「そんなことないって」
 うん、そんなことはない。
 つかさと話しているだけで、ココロの中の寂しさが溶けていくんだもの。

 いつか、こうやっていっしょに歩く日も少なくなるかもしれないけど、その想い出を大切にしていれば、きっとまたいっしょに歩く日が来るから……

「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「うんっ」

 私はつかさと歩く日々を、ずっと大切にしていきたい。
novel
Copyright (c) 2008 Kazuki Takatori All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-