注)このSSは、ONEの七瀬留美が主人公です。ネタバレは……最後にちょっと。
  また乙女七瀬のイメージを壊すおそれがありますので、その点にはご注意願います。










NA NA SE TYPHOON
 - 蒼い衝撃 -

Written by Kazuki Takatori









「おぉ〜りぃ〜はぁ〜らぁ〜〜〜〜!!!!」
 七瀬の叫び声が、教室にこだまする。
 昼休みでざわついてた教室が一気に静まって、俺達に視線が集中する。
「な、なんだよ。残してた弁当のおかず取っただけじゃないかよっ」
 睨み付けてくる七瀬に、俺はちょっと動揺しながら言った。
 ただ、卵焼きを取っただけなんだけどさ。
「あたしの大好きな卵焼き……最後にとっといたのに……」
「あのなぁ、好きな物っていうのは最初に食べておくもんだろ」
「この間はフライドチキン、さらにこの間はうさぎさんリンゴ、一週間前は弁当箱ごと食べたでしょ!」
「あー、そんなこともあったなぁ……って、お前がさっさと食べないから欲しくなっただけだ!」
「あんたにはあたしの乙女心がわからないんでしょ!」
「あ、いや」
 ある意味わかりたくない部分もあるんだが。
「と、とにかく、俺は悪いとは思ってないからな」
「悪い! 全面的に悪いわっ!
 いくらあんたが悪くないって言っても、地獄のエンマ様はきっとあんたを有罪判決にするわよ!」
「そこまで言うか、おい」
「あんたのせいで放課後まで空腹なのよ!? この時間には学食もいっぱいだし……もう、どうすればいいのよっ!」
 しかも人の話聞いてねーし。
 こういう思いこみが激しいヤツは、軽くあしらっとくに限る。
「あー、わかったわかった。だから、メシ粒でも喰っとけ」
 俺はそう言って、空になった七瀬の弁当箱をそっと差し出す。
「…………」
 それを見た七瀬は肩の力を抜いて、ため息をつきながら俯いた。
 やれやれ、やっと収まったか。
「……ねえ」
「ん?」
 ぼそっとした七瀬の呟きに、俺は適当に返事した。
 と……

「一回、極めてもいい?」

「……!!!!」
 無表情に……だけどおぞましくなるほど低い声で、七瀬は俺にそう告げた。
 その瞬間、俺の防衛本能が全会一致で危険信号を採択した。
「じゃ、じゃあな!」
 俺は急いで教室から去ろうとしたが、七瀬は驚異的な瞬発力で俺の前に回り込んだ。
 そして、
「覚悟……」
「ぐぇっ!!」
 七瀬が呟きながら、俺の鳩尾にトゥーキックをぶちかましてきた!
 瞬間、俺の視界が真っ白になって……次に視界が開けたときには、七瀬は前のめりになった俺の両腕を背中にまわして、それをがっちりクラッチして……って!
「だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 七瀬がジャンプして尻から落ちると、身動きの取れなくなった俺は……

 ごすんっ!!

「ぐぇ!?」
 鼻っ柱から地面に衝突して、思いっきり顔に激痛が走った。
 こ、これは「ペディグリー」か!?
 あまりもの痛さに悶え転げ回ってると、
「へいへいへいへい、ちょっと退いてね〜」
 って住井、なに机をどけて即席リングを設営してる!?
 ……そう言える余裕もなく、七瀬は俺の髪を掴んで引き起こしに来た。
 表情は、無表情のまま……そして、俺の右腕が七瀬の肩に巻き込まれる……って、うわぁ!

 どんっ!!

「んぎょ!」
 そのまま背負い投げをかまされて、背中に思いっきり衝撃が走る。
「うぐっ……」
 それから間をおかないで、後ろから七瀬がスリーパーホールドをがっちり極めてくる。
「ぐっ……ぐぐっ……」
 七瀬の細い腕が、俺の首に食い込んでなかなか離せない。
 だが、俺は落ちまいと立ち上がって、
「ぐっ!!」
 背負い投げの要領で、七瀬を投げる。
「おぉぉぉぉぉぉっ!!」
 七瀬のスリーパーがそれで解けた瞬間、教室中の男どもから歓声が沸き上がる。
「白だ! 純白!」
「モロだ、初めてのモロだっ!」
「折原いいぞぉ! もっとやれぇぇ!!」
 ちくしょお、羨ましいぜっ! 投げた俺には見えなかったんだからな。
 南なんて、カメラ持ってるし……って!?
「……ふんっ!!」
「がぁっ!!」
 無表情な七瀬が手近の椅子をフルスイングして、南の顔面に思いっきりヒットさせた。
 お、恐るべし、七瀬……
 今ここに、俺は史上最凶最悪のヒールレスラーを誕生させてしまったんだ……
 こうなったら、俺も本気を出すしかない。

 次の授業が押し迫っていたことがあって、俺はハイスパートな展開に出た。
 いくら髭でも、こんなところを見たら即刻職員室呼び出しだろ。
 一応七瀬も女だから、手加減した技をちょくちょく出して体力を消耗させようと思ったけど……とんでもない。
 俺がブレーンバスターを出せば、七瀬は垂直落下式DDTで返し、俺が足四の字固めに出れば、七瀬はサソリ固めで返してくる。
 くっ……ここまで大技を出されると、俺だって体力が尽きるぞ……

 そして、俺がばてているところに、バックにまわった七瀬が俺の両脇から腕を通して、がっちりとフックした。
 む、胸の感触が背中に……や、やわらかいぃ……
 って、そんなことに浸ってる場合じゃない!
「のぉぉぉぉぉ!!」
 いくら俺でも、このままブリッジされてジャーマン・スープレックスを喰らったらまずい!
 俺は両手で七瀬のフックを無理矢理ほどいて、後ろに回り込もうとした。
 その時、七瀬の足が俺の股下に伸びて……

 ちんっ☆

「うにょがきょうなぁはにゃあべれっしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 七瀬のトゥーキックが俺の分身に直撃して、鋭い激痛が股間に……その上、目までチカチカしやがる!
 お、男にしかわかない痛みだぞ、これって!
 さらに、前屈みになっている俺のことを左腕で抱え込むと、
「乙女の妙技を味わいなぁぁぁぁっ!!!!!」
 き、貴様はロック様か!
 七瀬が絶叫とともに、俺の足を払いながらジャンプした!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 う、受け身が取れねぇっ!
「ぐっ!!」
 俺はそのまま、床に頭をしこたま打ち付けた。
 畜生、ロックボトムまで使ってくるなんて……
 俺は肩で息をしながら、視界がひらけてくるのを待った。
 と……コーナーになっている机に、七瀬が後ろを向いて上っているのが見える。
 もしかして、ムーンサルト・プレス?
 だとしたら……ぐ、むふふっ……
 さあ来ぉい!! 俺がラブ・パワーで全部受け止めてやるぜぇ!!
 俺は両手を広げて、七瀬がムーンサルトを仕掛けてくるのを待った。
 七瀬は俺のご希望通りにムーンサルトの体勢に入って、バク転してきた!
 スカートをひらりと舞わせながら、七瀬が俺の体に舞い降りてくる。
 って、おい!!
「っ!!!!!!!!!!!!!」

 どすんっ!!

 …………
 息が詰まって……声にならない……
 七瀬の体じゃなく、足……フットスタンプが、俺の鳩尾に見事に落ちてきたんだからな……
 俺は悶えるようにして、床にごろごろと転げ回った。
 七瀬は……首をかっ切るポーズ……って、フィニッシュか!?
 どうにかしてそれだけは避けたかった。俺だって、男なんだからな。
「残り時間三十秒!」
 いつのまにかレフェリーをしている住井が、俺達にそう告げた。
 なんとか立ち上がって、俺はアピールをしている七瀬の後ろにふらふらと近づいた。
 これ以上、俺に出せる技はない。
 だったら……これで止めるしか……
 俺は、七瀬の肩に手をかけた。
 すると、七瀬がびくっと振り向いて……それを狙っていた俺は、一気に七瀬のことを抱き寄せた。
「!」
 体を強張らせて、俺のことを睨む七瀬。
 俺は、七瀬の腰を手を回してがっちり締め付けた。
「ふっ……」
「きゃっ!?」
 耳に息を吹きかけた瞬間、七瀬が怯んで目を閉じた。
 その隙に……っ!!

 むっちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!!!

「!!!!!!!!!!!!!!!」
 ロマンも乙女もへったくれもないキスを、七瀬の唇にかましてやった。
 これしかなかったんだ……七瀬の心を収めるには……
 強引に吸い付けていた唇を、そっと離す。
「……こっ」
 正気に戻ったのか、七瀬の顔に表情が戻ってきた。
 俺は抱きしめながら、そんな七瀬の顔をじっと見ていた。
 ……そんな俺がバカだった。
「このアホぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 ごすんっ!!!!

「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 俺の頬に、七瀬の拳が一気に決まったからだ……
 俺の腕を振りほどいて、ローリングしながらだったから……その威力は凄まじくて……


 薄れ行く意識の中で……
 俺は、最後に七瀬を抱きしめたときの胸と唇の感触を思い出しながら、悦に入っていた……



 えいえん……?
 ああ、いいとも……
 俺の人生に悔いはねぇ!!




スペシャルマッチ・15分間1本勝負(観客:41人)
○七瀬 留美(14:58 グーパンチによりKO)折原 浩平×


<あとがき>
 えー、2001年WWFバージョンです。
 ……浩平がさらに痛い目に遭ってますが、まあ、ご愛敬ということで(笑)。



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