そばに、いてね
Written by Kazuki Takatori
「……三十八度二分。ちょっと高すぎだな」
あうー……
「大丈夫か? 真琴」
「……あまり大丈夫じゃないかも」
布団に潜り込んだあたしは、祐一の顔を見上げた。
「けど、心配しなくて大丈夫だよ。ただちょっと熱が高いだけだから」
「わかってるけどさ。昨日あれからはしゃぎすぎたからな、お前は」
呆れたみたいに祐一はいうけど、その言葉からは心配してるのがちゃんとわかる。
あ……撫でてくれたぁ。
「だって、子供ができたの嬉しかったんだもん」
「だからって、体壊したら元も子もないじゃないか。お腹の子だって調子悪くするぞ」
「あぅ……それはいやっ」
昨日、秋子おかあさんからあたしのお腹の中に赤ちゃんがいるっていうことを教えてもらったのが嬉しくて、祐一や名雪、美汐と一緒にゲームとかで夜遅くまで遊んでて……結局、あたしは体調をくずしちゃった。
まあ……祐一が看てくれてるから、ちょっと得、かな?
「だったら、おとなしくしてろよ。マンガ読むのも禁止」
「えーっ、ダメ?」
「だーめ。昨日あまり寝てないんだから、素直に寝てろって」
あたしが子供みたいに祐一は言うけど、ちゃんと心配してくれるってわかるから……嬉しいな。
前みたいに、意地張った言い方じゃないし。
「うん……わかった」
だから、あたしも意地を張らないでいよう。
ちゃんと寝転がって、祐一の顔を見上げる。
「ねえ」
「なんだ?」
「祐一も、お父さんになるんだよね」
「…………」
あれ?
顔、赤くなってる……
「真琴」
「あぅ?」
「いきなりそういうこと言われても、さ……」
「どうして?」
「いや、昨日わかったばっかりだし……」
あ、もっと赤くなってるぅ。
目もそらしちゃって……
なんか、かわいいなぁ。
「実感ないの?」
「まだ、な。そう言う真琴は?」
「あたしも……かな。
だけど、秋子おかあさんが言ったんだから本当だよ」
秋子おかあさん、今まで嘘ついたことないもん。
「まあ、確かに秋子さんは俺達に嘘つくような人じゃないからな。
それにしても……」
「うん?」
祐一が、あたしのお腹をそっと撫でる。
「く、くすぐったいわよぉ」
「お前のこんな小さな体に、俺とお前の子供がいるなんてな」
「真琴と祐一の……あたしたちの赤ちゃんだよ」
こう言っただけで、嬉しいなぁ。
あたしたちの赤ちゃん……だもんね。
「これから、大変だな」
「ううん、平気……祐一たちがいるんだもん」
「それに、専属看護婦の天野もな」
「みんないるから、大丈夫。
だから……あたし、頑張るよ」
昨日から、何度も言ったこと。
けど、あたしは祐一とこう話しているだけで嬉しくなる。
「俺も……どれだけお前をサポートできるかわからないけど、頑張るよ」
「その時はお願いねっ、旦那様!」
あ、いたずらっぽく言ったら、また赤くなってる〜。
こういうことに弱いんだ。祐一って。
「……あうー」
「あうーっ、真似しないでよ」
「俺、まだ慣れてないんだからさぁ、あまりそんなこと言うなよっ!」
「あははっ、祐一、照れてる照れてるぅ!」
「う、うるさいっ!」
「あうっ」
祐一が、あたしの頭を枕に押しつける。
「話はおしまいだ。そろそろいい加減に寝ろよ」
「祐一も、早く慣れないとだめだよ?」
「わーったから……そばにいてやるから、寝ろって」
「うんっ」
目を閉じると……また祐一が頭を撫でてくれた。
祐一の手って……
おっきくて、あったかいね。
あったかい、ね……
『まったく、お前は俺の膝の上が好きなんだな』
そうだよ。
祐一の膝の上、気持ちいいんだもん。
『ほらっ、じっとしてろよ。今、包帯変えてやるから』
祐一より、秋子さんのほうが優しいけど……
あまりきつくしないでね? 歩きにくいし。
『よし、だいぶ治ってきたな……もうそろそろ走れるんじゃないか?』
そうだね。って……あうーっ、頭ぽんぽん叩くのはやめてよっ!
『春休みになったら、一緒に遊ぼうな』
楽しみだなぁ、祐一と一緒に走るの。
あの丘で転げ回って、一緒に空を見上げるの。
お母さんたちと一緒に、それに、祐一や秋子さんも。
あたし、みんなと一緒がいいの。
ただ、それだけで……
『祐一くん、この子の調子どう?』
あっ、秋子さんだ。
あたしの足ね、もうすぐ治るよ?
でね、みんなと一緒に遊べるの。
『もうちょっとで治るみたいです』
秋子さんと名雪、祐一のおかげでねっ。
みんな、あたしに優しくしてくれるから……
『ほんと、もう走れるみたい』
走りたいけど、まだ我慢しようっと。
だって、名雪って足が速すぎるんだもん。
『もうちょっと待ちましょうね。
春になって、また祐一くんが来たら、今よりずっと元気になってるでしょうし』
うん。
それまで、待ってるよ。
春が来て……
また優しい祐一が戻ってくるまで。
あたしがちゃんと走れるようになるまで……
だけど……
春になっても、
夏になっても、
秋になっても、
冬がまた来ても、
あたしを優しく撫でてくれた祐一は、
あたしと一緒に遊んでくれた祐一は、
あたしに暖かさを教えてくれた祐一は、
祐一は、あの丘に来なかった……
また会えると思って、
雪の中で待ったけど、
足が冷たくなって、
傷痕が痛んで、
それは、
祐一への憎しみに変わった。
寂しかった。
哀しかった。
イヤだった。
だけど、
祐一のにおいがしたんだよ。
雪の中で、あの時みたいに。
帰ってきた祐一はすっかり大きくなってたけど、
あのときといっしょのにおいだったよ。
秋子さんも、名雪も……いっしょだったよ。
だからね、あたしは……
祐一たちと一緒にいたくて、人間になったの。
祐一にいっぱい文句言いたくて……
ううん。
みんなと、一緒にいたくて……
もう、
寂しい思いをするの、
イヤだったから……
だから、
今はとっても幸せだよ。
ずっと一緒にいれるんだもんっ!
それに、この子も……
みんな、
ずっと、いっしょだから……
「……あ」
……いつの間に寝てたんだろ。
ちょっと体を起こすと……さっきより、ずっと楽になってる。
熱も下がったみたいだし、そろそろ起きようかな。
けど、祐一は?
「ぐー」
……って、あたしの横でぐっすり寝てるし。
それにしても、かわいい寝顔してるわね。
さっきしてくれたみたいに、あたしも祐一の頭を撫でてみる。
髪の毛がさらさらって手にかかって、気持ちいい。
祐一は……気持ちいいのかな?
あたしは、祐一に撫でてもらうと気持ちいいけど……
きっと、祐一も気持ちいいよね?
撫で終わっても、祐一は起きそうもない。
もうすぐ夕方だっていうのに……
ふぅ……しょうがないわね。
あたしも、祐一の隣で寝よっと。
立ち上がったあたしは、押入から毛布を引き出してそのまま祐一にかけてあげた。
押入を閉めて、布団を祐一に寄せて……
布団の中に入って、祐一にくっついた。
あったかくて、
気持ちよくて、
ほっとする。
祐一と、一緒だから。
ゆーいち。
あたし、そばにいたいの。
みんなのそばに。
ずっと、さみしかったから。
みんなといっしょにいるの、すきだから。
だから、
ずっと、そばにいてね……
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