――ねえ、”しあわせ”ってなんだと思う?
――なんだよ、突然。
――ちょっと思っただけだよ。
――それまた、おまえらしくない質問だな。
――ねえ、ひどいこと言ってない?
――気のせいってことにしとけ。
――じゃあ、ちゃんと答えてね。
――……しあわせ、ねぇ。
――しあわせ……
日常は、事象で埋められている。
「うさぎさん」
「おっ、ほんとだな」
「…………」
「どうした?」
「……なでてみたい」
「なでてくればいいじゃないか」
「いいの?」
「もちろん」
「……お弁当の、何か食べるかな」
「野菜ぐらいにしとけよ」
「わかった」
「……おお、よく食べるな」
「…………」
「そっと、優しくなでてあげるんだぞ」
「わかってる」
人はそれを、退屈と呼ぶかもしれない。
「今日も暖かいな」
「そうですね。アイスクリームも美味しい季節です」
「まだ春だってばさ」
「春でも夏でも、アイスクリームは四季通しておいしいんですよ」
「本当、お前ってアイスが好きだよな」
「今日の帰り、買ってくれませんか?」
「えっ?」
「もちろん、おごってくださいね」
「ぐぁ」
「祐一さんの買ってくれたアイスが、一番おいしいんです」
「……それ、前は香里って言ってなかったか?」
「お姉ちゃんと祐一さんは、同じ一番ですから」
「なるほど、ね」
「二人とも、私の大好きな人です」
でも、よく見渡してみてほしい。
「あぅー♪」
「どうした?」
「祐一のひざまくら、気持ちいいんだもんっ」
「ほんと、お前って俺のひざまくらが大好きだよな」
「祐一の膝は真琴だけのものだもんねっ」
「はいはい、だからすりすりしない」
「えへへっ」
「けど、俺達って気が合うと思わないか?」
「なにが?」
「いや、俺も真琴にひざまくらしてもらうのが大好きなんだ」
「あうぅ、祐一のあたま、大きくて真琴のひざには大きすぎるよぅ」
「それでも、俺は真琴の柔らかいひざが気持ちいいと思うぞ」
「ゆ、祐一のえっちぃ!」
「あわっ、な、殴るなって!」
「えっち、すけべ、へんたーいっ!」
「さすがに顔だけはやめてくれっ!」
「あう〜!!」
それは、降り積もった「奇跡」の産んでいるもの。
「くー」
「おーい」
「くー」
「お姫様〜」
「くー」
「…………」
「くー」
「……えいっ」
「わぁっ」
「お前さぁ、人の寝床にいてまで遅刻する気か?」
「うにゅ……そんなことないお〜……」
「また寝ようとする……そういう奴には、えいっ」
「あっ……だっ、だめだよ祐一ぃ……」
「起きるまで続けるぞ」
「そんなこと言ったって……あんっ」
「ほらっ、して欲しくないなら起きろ」
「んっ……はぁんっ……」
「それとも、このまま朝から……」
「……くー」
「ね、寝るなぁぁぁぁっ!!」
奇跡と呼ぶには、ささやかすぎるかもしれない。
――別に、なにがしあわせってわけでもないと思うんだけどな。
――そうかなぁ。
――その人がしあわせと思っていればしあわせだし、思っていなければ、しあわせじゃないんだろ。
――それは違うよっ。
――え?
――思っていなくても、しあわせなときはしあわせなんだよ。
――そういうものかな。
――うん、きっとそうだよ。
小さな奇跡のかたまり。
《ずっと私の思い出が…
佐祐理や…祐一と共にありますように》
再会。
《私、笑っていられましたか?
ずっと、ずっと、笑っていることが、できましたか?》
生への執着。
《あ…あぅーっ…
あぅーっ…うぐっ…》
大切な絆。
《……祐一、奇跡って起こせる……?》
家族。
人が無意識に望むこと。
それは、強い希望。
ことばよりも強く。
そして、どんなものよりも大きく。
その小さな奇跡は……
降り積もれば、大きな奇蹟になる。
《残りのひとつは、未来の自分……
もしかしたら、他の誰かのために…送ってあげたいんだよ》
願いは強く。
想いは強く。
そして……
希望は強く。
「えいっ」
「おわっ! い、いきなり腕に抱きついてくるなよ!」
「うぐぅ……祐一君、こういうの嫌?」
「嫌ってわけじゃないけどさ……こう、人前でやるのはやめてくれないか?」
「どうして?」
「どうしてって……ここは商店街だし、人通りだって多いだろ」
「だから?」
「恥ずかしいから、とりあえずやめてくれ」
「ボクは恥ずかしくないよっ」
「俺と世間一般は恥ずかしいのっ!」
「うぐっ……」
「……まあ、手は繋いでていいからさ」
「本当?」
「本当だ」
「本当に本当?」
「本当に、本当」
「えへへっ……」
「しあわせそうだな、お前」
「あたりまえだよ。だって、好きな人といっしょにいられるんだもん」
「そっか」
「うんっ!」
ほんのひとつの、希望のかけら。
それを、想いが一つにつなげていく。
人はそれを「奇跡」と呼ぶ。
そして……
たとえ小さな奇跡でも、
それは繋がれば、
大きな希望になる。
――ねえ、祐一。
――なんだ?
――いい天気だね。
――そうだな。
どんな形であれ、
それが人の望むものであれば、
それは奇跡になって、
希望にもなっていく……
――いい日だな。
――うんっ。
その奇跡が……
人々の心に積もりますように。
[ END ]