July Seventh
- たなばた -
from "Ambivalenz"
written by 鷹取かずき
からん……ころん……
軽やかな下駄の音が、河の流れる音と一緒に響く。
夜になっても暑さはほとんど変わらないけど……水音のおかげで涼しく感じる。
水面には、空に浮かぶ星が映って……
小さな笹舟が、ゆらゆらと流れていた。
今日は、七夕祭りの日。
私は買い物袋を手に持って、河原を一人歩いていた。
いつもと違うのは、私は浴衣に下駄っていう格好だということ。
有馬さんが「七夕は特別な日だから」と仕立ててくれて、それを由羅さんが着付けてくれた。
ちょっと、歩きにくいけど……たまにはこういうのもいいかなぁ。
修羅さんも、似合ってるって言ってくれたし。
……ちょっと、顔が少し赤くなってたけど。
あの冬の戦いから、もう七ヶ月。
修羅さんは、私と同じ教会で過ごすことになった。
最初は照れていたけれど、このごろになってようやく慣れてきたみたいで……それまでよく、有馬さんや由羅さんがからかったりしていたっけ。
私は高校三年生になって、今までとほとんど変わらない生活を続けている。
変わったのは……亜沙子がいなくなったこと。
わたしの友達だった亜沙子は、もうずっと前にいなくなっていて……あの亜沙子は、修羅さんの敵だっていうことを、修羅さんから教えてもらった。
だけど、私は信じられなくて……ずっと、ショックを受けていた。
いつも隣にいた友達がいなくなっただけで……すごく、寂しくて。
そんな私を、修羅さんは優しく包み込んでくれた。
修羅さんは途中まで学校まで送ってくれたり、迎えに来てくれたりして、元気づけてくれた。
ただそばにいるだけで……私は元気になれた。
そして、修羅さんは……
私の、いちばん大事な人になった。
誰もいなくなった私の心の中を、たった一人で温めてくれて……
私のことを、そっと守ってくれる。
だから私は、修羅さんのそばにずっといたい。
私には何もできないかもしれないけど……
ただ、そばにいてあげたい。
それが、今の私の願い。
これ以外は、何もいらない。
ただ、ずっといられれば……
その願いを、私は短冊に託した。
「あ、おかえり」
「ただいま帰りました」
由羅さんが、短冊を笹にくくりつけながら私に挨拶してくれた。
「あっ、なかなか様になってるじゃない。浴衣」
「由羅さんと有馬さんのおかげですよ」
「ううん、花梨のプロポーションがいいからだって。
さ、修羅ももうすぐ帰ってくるから、そろそろご飯作ろうか」
「そうですね」
私は頷いて、教会の中に入ろうとした。
けど、顔にひっかかりそうになった短冊を除けようと、わたしはそれをそっと手にした。
その短冊には……
「…………」
「どうしたの? 花梨」
「い、いえ。なんでもないですっ!」
私の短冊に寄り添うようにして、
《花梨とずっと一緒にいれますように》
って、修羅さんの字で書かれていた。
私と一緒の願いだったのが嬉しくて、
「ふふっ」
ちょっと、笑っちゃう。
そっか。
私と一緒の、お願いだったんだ……
「さあ、がんばらないとっ」
おいしいごはんを作って、待ってよう。
一緒にいてくれる、修羅さんを。
< あとがき >
どうも、鷹取かずきです。
このショートストーリーは、99年の夏コミでサークル「むぅむぅ堂」さんが出したアリスソフト本に収録していただいたものをちょこっと改訂したものです。
今はちょっと季節はずれですけど、七夕の夜の、ちょっとしたストーリーっていうことで……「Ambivalenz」のクライマックスは冬だったから、対称的なものにしたかったので、こんな風にしてみました。
それでは、また。
鷹取かずきでした。