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2008/05/07(水) 積み重ねられてきた、そして積み重ねるべき「信頼」――「COMIC1」見本誌寄贈問題

はてなブックマークの情報 はてなブックマークに登録 はてなブックマーク数 2008/05/07 23:07 同人鷹取かずき
 またまたこの件に関してのエントリです。
 当サイトでは延々と図書館の寄贈に関しての文句グダグダと書いていったのですが、その件に触れる前にほんのちょっとだけ話題を変えてみたいと思います。

 以前にも書いたとおり、日本最大級の同人誌即売会「コミックマーケット」(以下コミケ、正規表現時はコミケットを使用)では古くから全サークルの見本誌を毎回回収しチェック・保存しているわけですが、その中で米沢代表やコミケットカタログ、同プレスの発言などで「いつか同人誌図書館なんてのが出来たらいいね」というものがあり、また、コミケのサークル参加申込書に収録されている「コミケットマニュアル」には以下のように記述されています。

 コミケットでは第一回目より見本誌を集めています。個人の営為としての表現、文化としての同人誌を後の時代のために残すという目的のためです。現状では、回、ジャンル、ブロックのおおざっぱな整理しかされていませんが、全て保管されています。同人誌図書館、資料館の設立に向けて、資料の保存に加えて整理を始めるべき時期に来ているのかもしれません。
――「コミケット69マニュアル」(2005年8月刊)より


 コミケでの見本誌回収に関して、これまでほとんど反発の声を見受けることはありませんでした。*1では、これまでどうしてサークルにとって貴重とも言える一冊を、サークル側は見本誌として提出し続けてきたか。それは、コミケにおいて長く続いてきた慣例・義務であり、また長年築かれてきたサークルとコミケ準備会との「信頼」で成立してきたからと言えるでしょう。何より、見本誌を集めることの目的をサークル側に明確に示し、そして全て保存していると示してきたというのも大きいところです。*2*3

 では、ここから本題。

 サークル側に対しての「COMIC1」の見本誌の扱いについては「サークル参加申込案内」に、以下の一文が記述されているのみです。

>見本誌提出のお願い
>■COMIC1に参加するサークルの頒布物の内容を、COMIC1準備会が当日の朝に確認させていただきます。また、開会前に当日の新刊を見本誌として提出して下さい。

――COMIC1「サークル参加申込案内」より

 好意的に考えればコミケと同様の形で見本誌というものを考えていたのだと思われますが、ここにはCOMIC1準備会が見本誌を回収する意図は書かれておらず、サークル側に対して「回収します」という事実のみが事務的に伝えられているだけ。この上で突如「COMIC1準備会日記:見本誌」のように何の前触れもなく突如寄贈することが通達されれば、サークルにとってはまさに青天の霹靂とも言える事態です。

 辛辣な物言いになってしまうかもしれませんが、いくらCOMIC1の主催がコミックマーケット共同代表である市川氏とはいえ、まだイベント自体の実績も浅く、サークルとイベント間の信頼もまだまだ構築段階です。さらに、明治大学という歴史ある大学に寄贈されるとはいえ、寄贈先はまだ影も形もなく、得体も知れない図書館(資料館)。そして詳細も何もかも不明のまま寄贈を決定。これでは「何も言わずに寄贈してくれ」と言われても困惑してしまうサークルのほうが多いでしょう。

 まあ、サークルの側にも非が無いというわけではありません。「COMIC1はコミケと同じような目的で見本誌が集められる」「表現チェックに使われるぐらいだろう」という漠然とした《思い込み》が、今回の混乱を起こした一因とも言えるでしょう。多くのサークルが、これまでほとんど疑問を持たずに見本誌を寄贈してきたのですから。

 コミケのほうは、前述のようにサークル側の準備会に対する信頼が長年の積み重ねで築かれていき、その上で見本誌回収が行われています。でも、コミケが今後、COMIC1と同様の"突然の行動"を取れば今回以上の反動が起きるでしょうし、このような行動を取るのは難しいと予想されます。*4現在の同人誌界は、この見本誌回収が始められた当時より多様化し、男性向け・女性向け・少年向け・少女向け・アニメ・マンガという大分類からさらに細分化されていて、同じ「同人誌・同人ソフトetc.」という表現の伝達手段を使用しながらも、それぞれのジャンルが今や独自の文化や雰囲気を持ち、突発的な行動を起こした場合には反応もそれぞれ違ったものになって多様な混乱を招く可能性で高いでしょう。

「COMIC1」のほうは新興でコミケに比べて規模も小さめということもあり、確かにフットワークが軽い面はあるかもしれません。でも、同人誌・同人ソフトetc.を持ち寄って参加しているのは、コミケと同じ「サークル参加者」。取るべき対応を間違えば、大なり小なり今回のような混乱が起こってしまうというわけです。

 人間はデジタルな「0と1の選択肢」ではなく、アナログな「心」を持っています。寄贈するという報せを快く受ける人の中には様々な思いがあると思うし、快く思わない人の中にだって様々な思いがあります。でも突然「寄贈します」「サークル側からの意見もあるから選択制にします」というデジタル的な対応では、そのどちらかに振れるしかありません。しっかりと前提を作っておいた上で今回の寄贈に関する話を切り出せば、サークル側も一緒の立場に立って考えることが出来る「明確なスタートライン」を作ることが出来たのではないでしょうか。

【関連リンク・記事】
 以下は図書館寄贈に関する個人的な雑感です。
 個人的には、図書館寄贈というのはあってもいいと思っています。自分も十数年前、コミケに初めてサークル参加したとき「同人誌図書館が出来たら、その一角にぽつんと自分の本があったら面白いだろうな」という風に考えていましたから。

 ただ、人気本の持ち去りの問題や個人情報の問題もありますし、気楽に閲覧できる形の図書館よりも国立国会図書館のような閉架式の図書館に寄贈するなり、その形式に準じた図書館を作るなりしてほしいというのが個人的な希望です。以前国立国会図書館を利用したことがありますが、身分証明証を提示して筆記用具以外の荷物を預けてから閲覧申請という手順に、明快かつセキュリティの面でも確としているという印象を受けたものでして。まあ、さすがに本文に書いたようなプロセスは必要だと思いますが。*5

 今回自分が反発してしまった理由の一つに「まず寄贈ありき」というCOMIC1準備会側の先走りの姿勢ばかりが目についてしまったというのがあります。「まだ計画段階でしか無い場所にどうして寄贈するんだ」「どうして有無を言わせない形になっていたんだ」「コンセンサスは得ているのか?」等々……建設的な発言であったのなら、また違ったのですが。

 表現規制云々に関しては、以前幕張事件関連のことを書いたこともあって確かに思うところはあるのですが、今回の一連の発言は基本的にそれを抜きで考えています。COMIC1準備会側の寄贈の目的はあくまでも「保管場所が狭小になった」というものであって、表現規制云々の話は付随であり、正式には触れられていなかったのですから。反発の理由のもう一つに、そういった「理由の後出し」があるのも確かです。

「お察し下さい」というのは確かに使いやすいものではあるのですが……

*1 : 参考資料:コミケットカタログのまんがレポート

*2 : 小ネタとして、コミケ45カタログのネタ記事「コミケット噂の真相」には「●見本誌はコミケットサービス(筆者注:コミケ直営の中古同人誌頒布店)で売られている」「●見本誌は、ちり紙交換に出されていて、得た大量のトイレットペーパーで晴海(筆者注:当時の会場「晴海国際展示場」のこと)全館のトイレの紙はまかなわれている」という噂に対し「これも嘘。見本誌はちゃんと千葉の倉庫にうず高く保管されています」と返答しています。

*3 : 余談として――ただ、コミケ準備会自体が膨大な数になってしまった同人誌をこれからアーカイブするとなると、莫大な時間がかかるのは確実です。なにせ、コミケにこれまで参加したサークルの総計は100万サークル弱。となると、これまで集められた見本誌の総計は100万冊を優に超えている可能性があるのですから……

*4 : ただ、準備会側がしっかり説明した上で意見を募って、最終的にどうするかをサークル、一般、スタッフ各参加者を含めたアンケートを元にして判断していく、という形であればその限りではないと思います。手間は大変かかるでしょうが。

*5 : 一部に同人誌はマイクロフィルム化して廃棄という情報もありますが、未確認情報ということなのでここでは横に置いておきます。


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