「見果てぬ夢」

脚本:堤泰彦 演出:鈴置洋孝
出演:鈴置洋孝、鶴ひろみ、麻生美代子、内海賢二、矢尾一樹etc.


 最近の趣味の一つに「観劇」っていうのがあります。
 中学・高校と演劇を経験したということもあり(高校のときは裏方でしたが)、専門学校でも演劇入門を履修していたので、演じること・創ることの両面においてずっと興味を持っていました。
 今現在、日本テレビ単局で毎月最終週の深夜に「劇場中継」というのをやっていて、それをよく見ているのですが、これがなかなか面白い作品揃いでいいんですよ。「ヒゲとボイン」「夢からさめても」といった最新作をはじめとした個性豊かな作品がたくさんあって、その中でもウチは「見果てぬ夢」という作品がお気に入りで、ビデオでよく見ています。
 この「見果てぬ夢」という作品ですが、まずアニメファンとしてはヨダレものな出演陣です。内海賢二(Dr.スランプ・則巻千兵衛役)・麻生美代子(サザエさん・ふね役)・鶴ひろみ(きまぐれオレンジロード・まどか役)・矢尾一樹(NG騎士ラムネ&40・ダ・サイダー役)・鈴置洋孝(ゲンジ通信あげだま・鈴木役)といった人気声優陣が作品を彩り、それに堤泰彦氏が書いた脚本がなかなか味があっていい感じなのです。
 脚本の内容ですが、以下のようなものです。


 舞台は、とある病院の裏庭。そこでは入院患者たちが思い思いの時間を過ごしています。
 看護婦をモデルに絵を描く、退院したくない売れない画家。看護婦から"セクハラ大魔王"と言われているラブホテルの経営者。「妊娠9ヶ月」という72歳の不思議なおばあちゃん。今にも泣きそうな、逃げてばっかりのお医者さん。女帝とも言えるほど気が強い婦長。そして、ぼんやり窓の外を眺めている一人の男。彼はつい数分前、ガンを医者から告知されたばかりなのです。
 悲喜こもごもの人間模様が描かれる病院の中で、彼らは一体どんな夢を見るのでしょうか。


 テーマは、この前々作「煙が目にしみる」と共通した「誕生と死」。病気によって人々が直面する「死」というものを、彼らが残していく「生」を交えて演じていくというものです。コメディタッチな作風で、見ていても飽きるということはありません。特に矢尾さんと内海さんの怒鳴り合いは息がぴったりで、見ているこっちまで圧倒されます。中盤以降は前半と違って、コメディな雰囲気の中にも重苦しさがあり、後半はシリアスに展開していきます。糖尿病、腹膜炎、ガンといった病気を持つ人々が、精一杯生きようとする姿を演じて、皆が自分の「生」を見つめるようになったラスト。そこで流れる、鈴置さんの次のナレーションが今でも心に残っています。

 こんなに人が自分の顔を見てくれるのって、生まれて初めてです。
 ……いや、2回目か。
 そう、1回目は赤ん坊の頃。
 私が生まれたとき、両親や周りの人たちは、私の顔をじっと眺めていたことでしょう。
 そしてたぶん3回目は、死の床についたとき。
 いろんな人が、私の顔を覗き込んでいることでしょう。
 ……そうだ。
 もしかしたらあの世で目が覚めたときも、やっぱり大勢の人たちが、私の顔を覗き込んでいるのかもしれません。
 先に亡くなった父や母や、おじいちゃんや、おばあちゃん。
 私が生まれたときと同じように、じっと私の顔を覗き込んで、私が目を覚ますのを待っているのかもしれません。

 だから私は……最期の時。
 妻にこう言い残してから目を閉じようと思っています。
「先に行ってるね。
 先に行って待ってるね。
 そして、お前があの世で目覚めたとき……私はその側で、お前の顔を眺めているね」

 この世の終わりは、あの世の始まり。
 最後の眠りは、長い長い、夢の始まりなのだから。



 そして、暗転していく舞台の中でおばあちゃんが一言「生まれる……」と呟き、咲き乱れるマーガレットの花たち。
 心地よい余韻が残るフィナーレで、終わったときには思わずほうっと息をついてしまいました。惜しむらくは、これが生の観劇ではなく、テレビでの観劇だったので、途中挿入されるCMによって幾度も緊張感が殺がれてしまったということでしょうか。もしも追加公演があるとしたら、是非ともチケットを買って現地で見てみたいです。
 笑いの面でも、リリカルな面でも全体的に印象に残る作品で、さらに高い演技力・呼吸&リズムの要求される作品でもあると思います。見ている側としては確かに面白いのですが、演じる側としてはやはり大変なのでしょうね。やはり、演劇というのは様々な面で奥が深いです。

< 戻る >