Love Letter
ラブ・レター

監督 岩井俊二
主演 中山美穂
ビデオ発売 フジテレビジョン


 うちが卒業した専門学校の授業の一環に「芸術鑑賞」があります。
 この授業ですが、よく高校にあるような単発の授業ではなく、毎週あるテーマをもとに一本の作品を見ていくというものでした。ジャンルも古典、コメディ、恋愛、ドキュメンタリー、現代映画、アニメーションなど多岐にわたっていて、決してジャンルが偏ることはありませんでした。
 その授業の中で「邦人作品の映画」と題して数回にわたり日本映画を上映しました。その中の一作がこの「ラブ・レター」です。




 拝啓 藤井樹様
 お元気ですか?
 私は元気です。



 冒頭、神戸に住む博子(中山美穂)はこんな文面の手紙を、フィアンセだった小樽の藤井樹に宛てて投函します。
「だった」というのは、樹は雪山での遭難事故で帰らぬ人になり、三回忌を期にその想い出を吹っ切ろうと手紙を投函したのです。
 ところが数日後、小樽から手紙が。
 今ではすでに国道になり、あるはずがない住所。そして、すでにこの世にはいないはずの藤井樹から返事が来たのです。
 再び手紙を出すと、また返事が。そしてまた手紙を出すと、返事が……いつしか、天国の藤井樹に届け、宛先不明で返ってきていたはずの手紙は、小樽の「藤井樹」との文通のきっかけになっていました。
 一方、その手紙をいつも訝しげに読んでいる小樽の藤井樹(中山美穂<二役>)は、わけがわからないままその手紙に返事を出していきます。
 だけど、そのやりとりをしているうちに他界した藤井樹が、文通をしている樹の中学時代の同級生だということがわかっていき、樹からの手紙もその話題が主になっていきます。博子の知らない「樹」の姿が、その手紙でかいま見えていたから。
 そんなやりとりを続けていくうちに、博子は小樽に飛ぶことを決意します。
 博子が知らない樹を、知っている樹……奇妙な螺旋が、一つになりそうでなっていかない、多次元のストーリーが静かに展開されていきます。



 まず目を引くのは、中山美穂の二役。
 博子と樹という、片方はおっとり、片方はハキハキしたタイプの役をまったく違う印象で演じ分けていて、よくある「そっくり」に終わらせず、逆に中山美穂という女優の技量の高さを魅せるいい脚本だったのではないのでしょうか。
 そして、岩井俊二監督によるシナリオ。
 岩井氏の作品といえば、「スワロウテイル」や「ピクニック」、関西テレビ制作フジテレビ系列で放送されていた「If」の「打ち上げ花火、上から見るか、横から見るか」など、映像で魅せる作品がかなり有名なのですが、この「ラブレター」に関してはストーリーの特殊さからか、国内よりも韓国や台湾といった東アジア圏での人気が高いようです。
 この「ラブ・レター」における重要な「死」というギミックを使用した別人物の代表作として、大林宣彦氏の「新尾道三部作(『ふたり』『あした』『あの、夏の日』)」というファンタジックな作品があります。しかし「ラブレター」の場合はファンタジーというよりも、現実で起きたちょっとした事件といった感じで、その死をきっかけに、何の接点もなかった二人が出会い、過去のことを思い出したり、未来に向けて様々な人と出会っていくという「日常の中でのちょっとした非日常への寄り道」といった感じで、人々の繋がりが一本の線になっていく様子がとても楽しく感じました。
 しかし、その線は決して繋がることはなく、あることを境に別々の場所へと向かっていきます。その様子は是非ビデオなどで見ることをおすすめします。ここでネタバレするには、惜しいストーリーです。



■ 舞台・神戸と小樽。
 共通しているのは、日本という国にあるということだけ。全編ロケで撮影された映像は、この二つの街をともに「独特の映像表現」で綺麗に、そして印象的にまとめています。
 特に記憶に残っているのが、小樽での、そしてラストシーンにおける山での雪景色。雪っていえばどうしても「冷たい」っていう印象があるんですけど、この作品に関してはむしろ、暖かく感じます。カメラのレンズの選定が上手いというか……特にラストの雪山のシーンでは、博子が山に、そして天国にいる樹に向かって「元気ですかぁーっ!」「わたしはぁーっ!」「げんきでーすっ!」と叫ぶシーンと相まって、素晴らしく綺麗に見えました。
 シナリオと映像の融合とでもいうのでしょうか、岩井監督の映像とシナリオのセンスが光っていたのではないのでしょうか。



■ ラブレター=「恋する人への手紙」
 これが普通の解釈だと思いますが、この作品に関しては「親愛なる人へのメッセージ」という解釈をしたいです。ラブストーリーというよりも、終わったはずだった恋愛の軌跡をたどることによって、様々な「親愛なる人」との想い出を振り返り、その人たちへのメッセージを送る……ラストシーンを見て、うちはそう思いました。
 決して幸せとは言えない終わり方だけど、不幸でもない終わり方。まるで優しい音楽が静かにフェードアウトしていくような感じが、ラストシーンにはあったと思います。

 一歩一歩、確実に築いていくラブストーリーもいいですけど、たまにはこういった「過去への回帰と、未来への展開」を描いた物語というのもいいと思います。
 角川書店の文庫からも原作本が出ていますが、これに関してはは是非ともビデオを見ていただきたいです。美麗な映像とストーリーを、是非とも見てみてください。

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