T Dragon Quest 1 & 2
- X68000の輝ける遺産 -
DQであり、DQではない世界。それがパソコン版DQ「TDQ」です。
ここでまず、TDQが発表された10年前に遡って、当時のパソコンやパソコン通信についての状況をお話しします。
今のDOS/V・Mac二極時代とは違い、当時はPC-9801(NEC)・X68000(シャープ)・FM-TOWNS(富士通)という機種の三国時代が展開されていて、DOS/VとMacはあくまでもおまけの存在でしかありませんでした。
TDQは、その中で得に2Dグラフィック処理に優れていたX68000をプラットホームとし、田圃氏(元・満開製作所所属)一人の手によって制作されました。
当時のこういったソフトの発表の場としては、パソケット、コミケ、もしくはパソコン通信が存在していて、TDQは主にパソコン通信で流通していました。当時のパソコン通信は、今のインターネットとは違い、会費を払って多くのアクセスポイントからホストコンピューターに繋ぐ「商業パソコン通信(Nifty-Serve(現@nifty)、ASAHI-NET等)」と、電話料金だけで繋げて、いろんなジャンルがある「草の根パソコン通信」の2つに区分けされていました。TDQはグラフィック・音楽のほとんどが元のDQと酷似していて、著作権の関係もあってか、主に草の根を転々と伝わって広まったようです。
本題のTDQですが、前出の田圃氏が一人で制作した、いわば今の「同人ソフト」の系譜に燦然と輝くゲームの一つとして、今も挙げられています。
TDQ1の制作は1991年。折しもDQ4が発売した一年後に、そのゲームは発表されました。しかし、最初は制作者不明ということで制作者を騙った人物もたくさん現れ、改造されたり、中には作者名を書き換えたバージョンまで流通したほどでした。
何故そこまでされたかというと、このゲームは一人で制作したとは思えないほどシナリオの質が高く、その上グラフィックなどもしっかりとアレンジが加えられ「別世界のドラクエ」として、パソコン通信上で賞賛を受けていたからなのです。
マップの広さは、DQ1と同じ128*128。クリアまでに要するプレイ時間はだいたい10時間。主人公の他にもいろいろな仲間キャラがいて、パーティープレイも可能。さらにTDQ独自のパズル風の謎解きもあり、本当によりどりみどりなゲームに仕上がっていました。しかも、これが無料で遊べるというのですから、いろいろな草の根通信で話題になるのも頷けます。
その1年後、今度は当時発売前のDQ5風システムを引っ提げ、田圃氏がTDQ2を制作し、世に送り出しました。今度はAIシステムの他、ルイーダの酒場、倍速歩行機能、キャラの顔・全体CG、さらにDQ7になって実現したキャラとの会話システム(酒場などに限定)が追加され、しかも前回以上のボリュームでクリアまでに20時間以上かかるなど、十分練られた作りだったと思います。
シナリオもただの勧善懲悪シナリオではなく、自分にとっての悪とは何か、悪にとっての「悪」は何か、など、考えさせられるようなシナリオを上手く作り出していて、最後までゲームに没頭させてくれました。もちろん、このゲームも無料で……
それから6年後、時はインターネットが急速に普及した時代。
某大学の学生ホームページでひっそりと「TDQ1・2」が公開され、さらにその2年後――2000年には、作者である田圃氏自らがGeocitiesでホームページを開設し、改良された「TDQ1・2」、そして構想段階である「TDQ3・4」が発表され、それと同時にX68000のBIOSやソフトが版権フリーになり、再びTDQをプレイする人が増加しました。
しかし、2001年8月に突如ホームページが消滅。履歴に残っていた掲示板にアクセスしてみると、そこには「JASRACの勧告で関連ページを削除せざるを得なかった」との田圃氏の書き込みがあり、以降TDQをプレイすることはままならなくなってしまいました。
それから3ヶ月……今度は石波さんという方が運営されている「石橋」というページ内の「ドラゴンオエストの道」というコンテンツで、このソフトがひっそりと再配布され、sawadaspecialさんなどのニュースサイトでも紹介され、再びこのゲームのユーザーが増加し、今に至っています。
自分とTDQが初めて出会ったのは、1993年のこと。
当時、私はとある草の根通信のBL(ボードリーダー=掲示板の管理人)をしていました。
最初入ったネットから転々と渡り歩いて、やっとこさ落ち着いた場所でBLをやっていたのは「アニメ・ゲームの掲示板」……当時のログを見ていると、若かったなぁと思うことしきりですが、オフ会に参加したり、シスオペの人の家に遊びに行ったりと、結構ネット生活を楽しんでいました。
ある日、BLをやっているからということで、ヒミツのファイルボード――ダウンロードコーナーへの誘いを受け、うちもそのリストを受け取ってそれにチェックを入れていたときのこと……
「あれ?」
初めて見たのに、なんだか見慣れたソフトの名前。
移植か? それともパクリか?
それは……
26 SD0001 TDQ.LZH T-DRAGON QUEST1 820KB
「何? これ……」
そう言いつつも、ダウンロードを開始しました。
当時使っていたモデムは1200bpsという超低速モデムで、それはそれは時間がかかりました……それが原因で、超多額な電話代請求が来て、結局は草の根から遠ざかってしまったのですが。
それはさておき、やっとこさDL出来たゲームをブランクディスクにインストールして、98からX68000にFDを入れ替えて電源投入。そして、耳慣れないタイトル音楽とともに、出てきたのは……
「 T DRAGON OUEST 」
ドラゴンオエストという、変な名前。
タイトル音楽である「序曲」は、ロトシリーズのものでもなく天空シリーズのものでもなく、序奏をかなり壮大に変えたものでした。
そして、早速ゲーム開始。
歴代ドラクエの曲が出てきたり、モンスターも1〜4の歴代モンスターが勢揃い。
「なぁんだ、ただのDQのパクリじゃん」
最初はそう思いましたが、だんだん間違いだと気づきます。
4〜5時間ほどプレイをしていると……大ハマリ。
確かにシステム・グラフィックはDQほとんど流用ですけど、シナリオやゲームバランスはオリジナルそのもの。しかもその質が極上とくればもう言うことないでしょう。
そして、プレイ時間だいたい20時間ほどでクリア。
後で聞くと、マップはたったの128マス×128マスで構成だったというから驚き。つまり、DQ1とほとんど変わらないマップサイズで、DQ3並……もっと言えばDQ5以上のクオリティを作り上げたっていうのは、やっぱり凄いと思いました。
それから7年……2000年。
X68000もグラフィックチップセットが壊れ、時代はウィンドウズ大全盛期。
そんなある日、倉庫の奥からTDQ1の入ったディスクを発見した自分は、久々にとインターネットでTDQのことを検索してみることに。
その時、初めて田圃氏のHP「TNB製作所」を発見したのです。
しかも、そこで驚愕の真実を発見。
プログラム・シナリオ・グラフィック・音楽・デバッグ・バランス調整……
全部、管理人のひで(田圃)さんが一人でやっていたというのです。
しかも、製作期間は1年間……
びっくりすることしきりです。
そして、そのページでTDQ2を発見。
早速DLしようとした……その時。
「そうだ、X68k壊れているんだった……」
電源をつけても、専用モニタに映るのは砂嵐。DOS/V用のモニタには繋がらないし、15KHzが映る汎用モニタなんて今じゃ売っていないし、修理も製造完了してるからできないし……
と、TDQのページを見てみると、X68kのエミュレーターでもプレイ可能とのこと。
「……やってやるか」
ここで、昔の血が蘇ってきます。
ROMの吸い出しプログラムを5インチドライブのある98経由で68に移し、倉庫からHuman68k(X68000用のMS−DOSにあたるソフトです)を出したら、モニタのないX68kに電源投入。
そして、キーボードを繋いで本当の意味でのブラインドタッチを開始(笑)。まったく見えない中でコマンドを打ち込んでいくと、FDがカタカタと……んで、アクセスが終わったFDを98で見てみると、エミュレーターの公式ページに書いてあるとおりのファイルの取得に成功。いよいよDOS/Vに舞台を移します。
FDのイメージを98で作成した後、そのイメージをMOに大量に入れてインストール開始。久々に見たX68の画面は、Windowsのそれより綺麗に見えました。
いよいよHDのイメージを作成。そして、TNB製作所のHPからDLした「TDQ2」を速攻インストール。そして、
A:\game\tdq2>autoexec
と打ち込んで、起動……してみたのですが、ただスライムがぴょんぴょん跳ねているだけで、先に進まず。
おかしいと思いつつ、HDイメージの調整とかバイナリいじりをしてみても、結局はダメ。仕方なくTDQ公式ページで質問すると、数分後にレスが返ってきたので、指定されたCONFIG.SYSとAUTOEXEC.BATを編集。そしてゲームを再度立ち上げてみると、
ぼうけんのしょをつくる
ついに起動に成功することができ、その後15時間ほど、サルのよーにプレイしている自分の姿がありました。
しかし、難しいのなんの……歴代DQ敵キャラ総登場で、次から次へと見慣れた敵キャラが急襲。さらに装備は取られるわ、お金もスられるわ、とにかくもう行く先々踏んだり蹴ったり……しかも、勇者であることが苦痛になるシナリオって、生まれて初めてです。本当に一人で作ったとは思えない、秀逸なシナリオでしたね。
なにせ、自分が良かれと思ってやっていたことが、実は世界の破滅へと進ませていたり、倒してはいけない者を倒していたり、そして自分とは関係ない人まで続々と死んでいくし、果てには自分が実は●●の血を引いていなかったりと、もうからくりがてんやわんや。
そして、怒濤のごとくラストへと突入していくわけですが……
これまた強いボスが。いきなりダブルでザキってきたり、炎で200ぐらいダメージ喰らったり……もう、イヤになって近くのレベルアップ地帯でレベルを上げまくりましたよ。
そして、38時間で無事クリアを果たしました。
全面的にこれといったアラもなく、非常に「DQらしいDQ」だと思いました。
曲も2曲のオリジナルがあるのですが、旋法などは多少稚拙ながら「DQの音楽」だと思えるような秀逸な出来でした。
特にラストの曲「大地の思い出」は十数分と長い物ではありますが、バックの回想シーンと相まってその旋律がとても綺麗に聴こえました。
確かに絵はDQなのですが、シナリオはふんだんにオリジナル要素が溢れています。でも「DQらしい」という感覚は、なんか不思議でした。
サブタイトルになっている「魔族の大地」ですが、このタイトルにも十分意味を持たせられたいいシナリオでした。
これについては大ネタバレになってしまうので言いませんが「勧善懲悪が必ずしも正しいものではない」というのを後半からは前面に打ち出しています。
そして、このゲームは「魔族を倒す」ことが目的ではないです。
では、何を倒すのか?
それは、プレイして確かめて頂きたいです。
今現在は「ドラゴンオエストの道」でダウンロードすることが可能です。また、起動方法などもすべて掲載されているので、そちらのほうも参考にしてみてください。
このゲームがフリーで配布されていたことが、今でも信じられません。
X68で市販化されていてもおかしくないようなゲームの出来だと思いますし、DQ5のレベルは遙かに凌駕していると思えます。
シナリオの質・ゲームバランスはかなりのものです。
是非ともプレイしてみましょう。
そして、「古き良き時代のゲーム」を感じてみてください。